星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)

 日本人の好きなクラシックの作曲家ランクでは、ベートーヴェン、モーツァルトに次いで第3位にランクしているチャイコフスキー。私が彼の作品を初めて聞いたのは、リッカルド・ムーティ指揮フィルハーモニー管弦楽団の交響曲第6番「悲愴」でした。たぶんメロディーメーカーですから、よそでほかの曲を聴いていたのでしょうが、自分から意識して「聴いた」のはムーティのジャケットがかっこいい(こればっかりやな)レコードがとにかく初めてです。クラシックの駆け出しのころです(笑)。だからのちのち、いろいろなところで「あっ、これ聞いたことある」というメロディがことごとくチャイコフスキーだと知ったときは、あらためて彼の、日本での人気の高さが納得できました。
 肝心のアバドによるチャイコフスキーですが、最初は「なんで第2番なんだ」と思ってしまった一連のシカゴ交響楽団との交響曲シリーズからでした。カタログではすでに「悲愴」がランキングの上位に入るのは知っていましたが、何しろ当時は図書館で音源が手に入る、とは知らなかったのでとにかく「本当に」聴きたいレコードだけを購入していました。





 それまでチャイコフスキーの交響曲と行ったら、4~6番ぐらい(しかもムラヴィンスキー)ぐらいしか聴かなかったのに、アバドのチャイコフスキー全集がアナウンスされるようになって、アバドじゃなかったら絶対に聴かなかったであろう交響曲第2番がリリースされました(ジャケットにも目がいった)。このリリース順に関しては、いきなり地味な2番からはじめたということで「全集」になるという暗黙の了解もあったようですが、1960年代から進められたチャイコフスキーの交響曲録音と同じ順番で進められたことは、アバドにとって大きな意味があったのではないでしょうか。  第一弾がリリースされた頃、私はアバド、メータ、ムーティといった指揮振りの派手な指揮者に憧れていましたが、彼らが私にとってのアイドルでした(笑)。そしてメディアもLPからCDという変換期で、鉄のカーテンの向側というイメージと、なかなか誰も取り上げず、あったとしても全集のセットに収められる運命にあった曲だっただけに、非常に興味深いレコードでした。
それが「地味」というイメージを吹き飛ばしてしまうほどのアバドの名演を見事に捉えていたレコードです。クラシックを聴き始めた中学生のころのリリースで、なかなか地味なCDには手が出ませんでしたが、たまたまラジオで放送してくれたのを耳にして「すっげぇおもしれぇ!」と喜んだのを憶えています。

そしてこの全集のもうひとつのお楽しみとしてカップリングされている序曲などの小品。スラヴ行進曲、ロミオとジュリエット、1812年などは比較的耳にする機会は多いのですが、「地方長官」とか「なにそれ?」的な曲が取り上げられています。


交響曲
旧録音
新録音
交響曲第2番
ニュー・フィルハーモニー管弦楽団(1968)
シカゴ交響楽団(1984)
交響曲第5番
ロンドン交響楽団(1970)
シカゴ交響楽団(1985)
交響曲第6番
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1973)
シカゴ交響楽団(1986)
交響曲第4番
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1975)
シカゴ交響楽団(1988)
交響曲第3番
--
シカゴ交響楽団(1990)
交響曲第1番
--
シカゴ交響楽団(1991)


 
 図書館は本当に便利。これでアバドのシカゴ交響楽団によるチャイコフスキー交響曲全集がそろったわけです(実際のリリースと逆に、シリーズのスタートが最後に手に入ったのです)。実は一番聞きたかったのが、この第2番で、リリース当時、ラジオで全曲聴いたことがあり、チャイコフスキーの2番は、こんなに面白い曲なのか」と驚かされた演奏なのです。それまで、ほかの指揮者で聴いたことはありましたが、「チャイコフスキーと言ったら4、5、6番だけだなー」などと思っていたぐらいですから。あれから20年近く経って、久々に聴きましたが、本当に面白い。
 おまけの、というよりも一曲目に入っている「テンペスト」だって、いかにもチャイコフスキーらしい金管の咆哮があったりして、次の展開、次の展開… と期待しているうちに終わってしまいました。今まで、ほとんど取り上げられずにいたのは、この曲には耳に残るようなサビがないからでしょうか。シカゴ響の名人技を堪能できる一枚です。




 交響曲第5番だけはアバドは三回録音しています。今回も余白にはめったに取り上げられることのない交響的バラード「地方長官」なんて曲がカップリングされています。




 ロンドン交響楽団あたりを振って名曲集をゾクゾクとリリースしていた頃のアバドを見事に捉えた感じのするジャケット。とにかく格好いい!確か帯には「悲しみなんかふっとばせ!」みたいなキャッチコピーが書いてあったような気がします(笑)

 アバドの「悲愴」は、長らく、そして今も「名曲選」みたいなのに選ばれるのは1973年のウィーンフィルのほうですが、やはり全曲集として眺めた場合は、私は軍配をシカゴ響との「悲愴」を上げたいです。とにかく第3楽章のノリは快感ですらあります。カップリングは「スラヴ行進曲」




 カップリングは幻想序曲「ロミオとジュリエット」 ロミオの第二主題の歌わせ方など、いかにもアバドらしくロマンティックにたっぷり歌わせているところが良いです。そして荒々しい第一主題の対比が素晴らしい。これがリリースされたとき、アバドはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任しました。




 アバドにしてみたらカップリングの「1812年」は意外な選曲で興味津々でしたが、今まで聴いてきた同曲の派手な演奏と比べると、ちょっとセカセカしすぎて楽しめない演奏です。心ここにあらずと言った感じで、これまでのシカゴ響とのスリリングな展開が感じられなくなってしまったような気がします。それは聴き慣れない交響曲ではなく、序曲の淡白な演奏から感じとってしまいました。一度きり、30年以上聞いてません…




4番までのジャケットは順調な運びで来たのに、このひとつ前の3番からずいぶん安っぽいジャケットになってしまい、このまま全集にならないんじゃないかという心配をしてしまいましたが、どうにか最後の1曲に無事に到着しました。でも、なんとなくシリーズスタート時の勢いとか、チャイコフスキーをアバド流に切って落とすような演奏ではないような気がします。それはすでにアバドの心がベルリン・フィルに移ってしまっていたからなのかもしれません。シリーズが完結しただけに、なんかちょっとこのあたりを聴く気がしません。




 アバドは、このシカゴ交響楽団とチャイコフスキーの交響曲、およびカップリングで交響詩もしくは序曲を1984年から1991年の間に集中してレコーディングしています。その順番は、最初に試みたであろう全集レコーディングと同じ順番で行われました。カラヤンの後任としてベルリンフィルの音楽監督の座に付いたのが1990年で、またしても交響曲第3番と第1番が空振りとなってしまうのかという不安もありましたが、シカゴ交響楽団との強い絆によって無事に完成したのです。まぁ、でもジャケットを見ると、あまりレコード会社が力を入れていなかったような気がしないでもないです。




 シカゴ交響楽団との全集途中にベルリン・フィルへの就任が決まり、なんとなく気もそぞろな感じがした後半戦。全集完成2年後にしてベルリンとのチャイコフスキーシリーズが始まりました… と思ったら、結局この第5番だけでした。カップリングはムソルグスキーの歌曲。




 アバドのチャイコフスキーは、ソニーが力を入れていましたが、ここでグラモフォンから序曲集(管弦楽曲集)をレコーディングしました。ムソルグスキーの作品集では、こんなところで合唱が入るのか!という珍しい楽譜を使ってくれているので、前回のシカゴ今日では入らなかった1812年に合唱を入れてくれていると期待しましたが、今回も入らず。

♪テンペスト Op.18
♪スラブ行進曲 Op.31
♪ロミオとジュリエット
♪1812年 Op.49




交響曲第2番(1968)
交響曲第5番(1972)
交響曲第6番(1974)
交響曲第4番(1976)
       
       


   


もどるhome(一番星のなる木)