星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

モデスト・ペトローヴィッチ・ムソルグスキー(1839-1881)

 ムソルグスキーの存在を知ったのは、「展覧会の絵」が、漫画家つのだじろうの『恐怖新聞』に使われ、それがNHK総合ラジオで、「連続サスペンスドラマ」としてオン・エアされたとき。その後、アレクシス・ワイセンベルグが来日コンサートで取り上げ、聴きに行く予定でいたのですが、チケットが取れず悔しい思いをしたのがそもそも。

 有名な「展覧会の絵」も、モーリス・ラヴェルの管弦楽編曲から日の目を見るようになったのですが、私はピアノから入れました。そして冨田勲の電子音楽(シンセサイザー)。この肖像画は、友人のレーピンが描いたもので、レーピンのサインを見れば1881となっています。そしてムソルグスキーは、この直後に亡くなってしまいます。

 さて、ムソルグスキーと言ったら「展覧会の絵」と「はげ山の一夜」が有名でしょう。しかし、ここで紹介しているクラウディオ・アバドは原典主義と自ら語っている通り、「展覧会の絵」は別として、「はげ山の一夜」をオリジナル版として紹介してくれました。この「はげ山の一夜」に関しては、ロンドン交響楽団とレコーディングしたのが最初で、そのあとベルリン・フィルと「展覧会の絵」とカップリング(グラモフォン)し、その後、ソニーにはさらに合唱が加わった版をレコーディングし、都合三種類。一般的なリムスキー・コルサコフ版を取り上げないという徹底的なこだわりを見せています。



はげ山の一夜/アバード
 

SideA
01.歌劇『ホヴァンシテイーナ』より「追放されるゴリツィン公の出発」
02.ヨシュア
03.歌劇『サランボー』より「巫女たちの合唱」
04.スケルツォ変ロ長調
05.センナヘリブの敗北
SideB
06.交響詩「はげ山の一夜」(原典版)
07.『アテネのオイディプス』より「神殿の人びとの合唱」
08.歌劇『ホヴァンシテイーナ』より「モスクワ河の夜明け」
09.凱旋行進曲「カルスの奪還」

クラウディオ・アバード指揮
ロンドン交響楽団及び合唱団

“逞しき知性の男アバードが揮う野趣奔放のムソルグスキー”
(アナログ盤の帯より)

1980年5月録音
上記の記載はアナログ盤の解説を転載しました。

 当時は良く知らないまま、ジャケットがカッコ良くて購入してしまったアルバムです。とは言え、お目当ては世界初録音と帯に記された「はげ山の一夜」のオリジナル版「聖ヨハネ祭の夜のはげ山」。1980年代のアバドはロンドン交響楽団の音楽監督という地位にあったこともあり、現在の巨匠という風格よりは若手(50歳すぎてる)トップクラスというあたりにいて、メジャーオーケストラよりは小回りのきくロンドン響との相性は抜群でした。
 アバドはグラモフォン・アーティストだったので、実はこのオールムソルグスキーのレコードはイレギュラーで、他にもう一枚、ロッシーニの序曲集をリリースしています。
 「いつもの」グラモフォンからはムソルグスキーの「展覧会の絵」とラヴェルの管弦楽集を網羅し、ストラヴィンスキーのバレエ音楽、ビゼーなどの作曲家を取り上げていきます。そしてもちろん、この時期の名演としてマーラーの交響曲シリーズをシカゴ響、ウィーンフィルなどと進めていました。それからヴェルディの『レクイエム』を忘すれてはいけません。

 アバドはムソルグスキーが大好きらしく、「展覧会の絵」はもちろんのこと、多くの作品を(といってもそれほど多くないのですが)手兵となる、かのベルリン・フィルを駆使して録音に挑んでいます。ただし、ムソルグスキーに漂う荒々しさを求めるなら、ロンドン響に軍配が上がります。

 アナログの帯が懐かしい右ジャケットの横にあるのが、1991にようやくCD化されたもの。RCAのロゴをもうちょっとセンス良く配置してほしいと思わずにはいられません(笑)。
 「カッコ良くて」というのは裏ジャケの写真。当時は、クラシックのアナログ盤のほとんどがジャケットの裏に解説でしたから、それを思うと両面アーティストのジャケットというのは、それだけで得した気分でした。

 話を演奏にしましょう。ここで聴かれる「はげ山の一夜」は、ただの曲ではありません。帯に記されているとおり、世界初録音による原典版というキワモノです。通常、この曲は後にリムスキー・コルサコフが「ひどいオーケストレーション」といって、ムソルグスキーのほとんどの曲について、耳に心地よい手を加えてしまった曲同様の扱いを受けています。
 しかし、このアバドの演奏は、いきなり魔物たちが箱の中から飛び出してくるほどの勢いで始まり、息を付く暇もなくエンディングを迎えます。それも夜明けと共に魔物たちが退散してゆくのではなく、ずばっと切り落とすかのごとく荒々しいもの。渾身の力を込めたアバドの棒さばきが目に見えるようです。まさに裏ジャケを音で表したかのように。



展覧会の絵/アバード
  
SideA
展覧会の絵(ラヴェル編)
SideB
ラ・ヴァルス(ラヴェル)

 ラヴェルの管弦楽曲集をレコーディングする傍らで、「展覧会の絵」も録音していましたが、ここでのメインはムソルグスキー。ラヴェルの「ラ・ヴァルス」はおまけのような感じでした。ライバル視されていたリッカルド・ムーティと重なる曲目が多いのも、市場としては面白かったのかもしれません。このアルバムは、今までのジャケットの体裁と異なりちょっとつまんない気がしました。しかしお値段は「完全限定盤」と銘打たれて2000円でした。その後、CD化されるにあたり、カップリング曲がいろいろと異なってしまいます。
 上の写真は真中がなつかしい帯のついたレコードで、国内ではこれが最初の版だと思います。右側がストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」とのカップリング、右がレコードと同じくラヴェルの「ラ・ヴァルス」とのカップリングでした。



ムソルグスキー/ベルリン・フィル 1
01.交響詩「はげ山の一夜」(原典版)
02. センナヘリブの敗北
03. 歌劇『サランボー』より「巫女たちの合唱」
04. 『アテネのオイディプス』より「神殿の人びとの合唱」
05. ヨシュア
06. 展覧会の絵(ラヴェル編)
 1990年からヘルベルト・フォン・カラヤンの後任としてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任したアバドは、これまでレコーディングしてきた作品の再レコーディングします。ムソルグスキーも例外ではなく、ここでは彼の名曲をまとめて入れています。すなわち「展覧会の絵」と「はげ山の一夜」。後者は当然、リムスキー・コルサコフ版ではなく原典版。私としてはロンドンとのレコーディングが衝撃的であり、攻撃的なスタイルの方が好きです。ベルリン・フィルとの音は、どこか行儀良くお澄まししたような感じがして、本来のムソルグスキーの姿ではないような感じがします。ただし、選曲がロンドンとの選曲と同じで、「ヨシュア」が入っているのは嬉しかったですね。


ムソルグスキー/ベルリン・フィル 2
01.交響詩「はげ山の一夜」(原典版)
歌劇『ホヴァンシチナ』より
02. 前奏曲
03. シャクロヴィートゥイのアリア
04. 追放されるゴリツィン公の出発
05. マルファの予言の歌ペルシャの女奴隷達の踊り
06. スケルツォ 変ロ長
07. 調古典形式による交響的間奏曲 ロ短調
08. 歌劇『ラムダ』より凱旋行進曲

 グラモフォンでは入りきらなかったのか、グラモフォンではプロデューサーが首を縦に振らなかったのか、ソニーでのレコーディングではかなりマニアックな選曲がされていました。これにはびっくり。しかもロンドンとレコーディングした曲の再レコーディングもあり。一番の驚き、というか目玉商品はオープニングに飛び出す「はげ山の一夜」の合唱版。こんなのどっから発掘してくるんでしょう(笑)。のちのちには「これ以上の驚きはない」だろうと思っていましたが、ジャンルは違いますが作曲者自身の編曲によるピアノ連弾版(ジュメル) というのにも驚かされました。

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