ウィンダム・ヒルの掲示板

Photo by Toshiharu Minagawa.


WH-1098
A WINTER'S SOLSTICE III / Windham Hill Artists
Produced by William Ackerman and Dawn Atkinson.

01.Little Drummer Boy*
02.Hopeful
03.Christmas Song
04.Veni Emmanuel *
05.Christmas Bells
06.Lullay, Lully*
07.Trepak [The Nutcracker Suite]*
08.Of the Father's Love Begotten
09.Coventry Carol
10.Sleepers, Awake [Cantata #140 Wachet Auf] *
11.Snow Is Lightly Falling
12.Pavane [The Capriol Suites]*
13.In the Bleak Midwiner
14.In Dulci Jubilo (Good Christian Men Rejoice) *
15.Earth Abides

Windham Hill Records, 1990

*はトラディショナル



  『ウィンター・コレクション1、2』のジャケット、内容で、すっかりファンとなった私ですが、それに追い討ちをかける(笑)かのように、ウィンダム・ヒルによる“冬”の第三集が1990年にリリースされました。レーベルの代名詞であるこのシリーズも、レーベル25周年に7枚目のコレクションを最後に幕を閉じることになりますが、私の中では1、2でこのシリーズのコンセプトや完成度など頂点に到達し、それ以降の作品集は、どことなくよそよそしさを感じます。うまく説明できませんが、第2集目まではアーティスト(レーベル)側から作り出された作品集で、この第3集あたりから「商品としてレコードを作らなくてはならない」という中で制作されたような気がしてなりません。

 とはいえ、アートワークから選曲に至るまで、そのときの旬であるアーティストをベテランアーティストの中に溶け込ませ、うまくPRしているあたりは、ウィンダム・ヒルの宣伝力のうまさを感じさせてくれます。そう、このシリーズの当初の目的には、レコード売り上げ促進も含まれ、特に新人アーティストの紹介にはうってつけのシリーズなのです。

 前作との間に2年というブランクをあけ、その間に多くの個性的なアーティストを輩出させました。このアルバムはそんなレーベルの事情を反映してか新人たちの参加がウリとなっています。特にレーベルの顔だったアコースティックと並んでエレクトロニクス・サウンドが収録されるようになったことは、ウィンダム・ヒルも進化する現れでしょうか。また、ベテラン人気アーティストの最近の動向を知る上でも、欠かせることが出来ないシリーズとして定着しています。
 最初に書いた「よそよそしさ」に、ウィリアム・アッカーマンの名前がパフォーマーとして入っていないことも原因の一つかもしれません。とはいっても作品全体を見回すことができるプロデューサとして、ドーン・アトキンソンと連ねているので、今回は新人たちに道を譲ったのかもしれません。

 

曲目の*はトラディショナルです。

01. Little Drummer Boy / Schonherz & Scott*
Richard Schonherz ; Synthesizers, Piano / Peter Scott ; Guitar
 アコースティック主体のレーベルの顔とも言うべきシリーズのオープニングが、いきなりエレクトリックサウンドで意表をつかれた感がありました。しかし、クリスマス・ソングでもとりわけポピュラーな曲を、シンセサイザーの幻想的な広がりを軸に様々な音色の楽器にメロディを歌わせるアレンジに、そんな思いも降り始めた粉雪が解けてなくなるように引きこまれていきます。リズムはラヴェルのボレロのようであり、そのアレンジの大きさはヴァンゲリスがいかにも好みそうなスケールを感じさせてくれます。まさにオープニングにふさわしい選曲といえるでしょう。
 

 
02. Hopeful / Michael Manring
Michael Manring ; Piano
 自らを「Crazy Bassist」と呼ぶマイケルがピアノソロで奏でた作品。雪解けの最初の一滴がきらりと光り零れ落ちる。春を告げるようなすがすがしいタッチのピアノを披露してくれ、爽やかな冬の空気を感じさせるような透明感のあるプレイを堪能できます。
 このアルバムの良いところは、性格的にはクリスマスであっても、冬というシーズンをテーマにしているため、そういったクリスマスという枠にとらわれることなく、リスナーは自由な情景を思い浮かべることができるところでしょう。
 

 
03. The Christmas Song / Steve Erquiaga
Steve Erquiaga ; Guitars
 同じギターでもナイロン・ギターの音色はアッカーマン、デ・グラッシ、ヘッジスなどの同じアコースティック・ギター・プレイヤーとはまた違った音色を奏でます。ローソクの柔らかい光のように、ほのかな温もりを感じることでしょう。 「この音色にスティーヴあり」といった感じで、また個性のあるプレイヤーを紹介され、今後の活躍が楽しみです。
 

 
04. Veni Emmanuel* / Turtle Island String Quartet
Dave Balakrishnan ; Violin / Darol Anger ; Low Violin / Katrina Wreee ; Violia / Mark Summer ; Cello
 前3曲とはガラリと雰囲気が変わって、賛美歌第94番“久しく待ちにし”を、弦4挺だけで荘厳な冬を連想させるが如く演奏しています。しかし重たくならず祈りにも似たアレンジが厳かな気分を損なうことなく聴き手に迫ってきくるあたりは、ウィンダム・ヒルというレーベル色でしょうか。
 

 
05. Christmas Bells / John Gorka
John Gorka ; Guitar, Vocals
 このシリーズ始まって以来のヴォーカル作品を提供しているのは、『LAND OF THE BOTTOM LINE』(WH-1089)をリリースしたジョン・コルガ。いよいよウィンダム・ヒルもヴォーカル(特にフォーク)作品も手がけるようになりました。もっとも、最初のヴォーカルアルバムは、マイケル・ヘッジスの『WATCHING MY LIFE GO BY』(OD-30)で1985年まで遡ることができます。
 しかし、インストゥルメンタルに慣れてきた耳には非常に新鮮に聞こえることでしょう。しかもジョンの声とギターがレーベルのイメージにピッタリの雰囲気を持っているから、なおさら違和感なく耳に届くのではないでしょうか。
 この曲は1891年 Henry Wadsworth Longfellowという詩人の書いた詩にジョンがメロディを乗せた曲ですが、この曲にこめられたメッセージは、クリスチャンでなくとも誰もが共通の祈りではないでしょうか?“地上のすべての人々に平和あれ”
 

 
06. Lullay,Lully / Barbara Higbie
Barbara Higbie ; Vocals, Harp, Piano, Synthesizer
 バーバラ・ヒグビーもマルチ・プレイヤーで、ここではすべての楽器を一人で演奏し、ヴォーカルも披露してくれています。最近『SIGN OF LIFE』(WD-1090)というポピュラーなヴォーカル・アルバムをリリースした余韻を楽しむかのようです。
 
 
 











07. Trepak / Modern Mandlin Quartet
Mike Marshall ; Mandolin / Dana Rath; Mandolin / Paul Binkley ; Mandola / John Imholz ; Mandocello

 オリジナルはチャイコフスキーの『くるみ割人形』の“トレパク〜ロシアの踊り”で、クリスマスの誕生を祝う祝祭的なムードたっぷり。それもカーニバルのようなお祭り。限りなく疾走してゆく音楽に目も回りそう。



08. Of The Father's Love Begotten / Tim Story
Tim Story ; Synthesizer / Martha Reikow ; Cello

 ウィンダム・ヒルに新しい風を吹き込んでいるエレクトロニックな音楽。1曲目のショーンヘルツ&スコットと同時期にレーベルからデビューしたティム・ストーリーもその一人。彼の演奏は、生の器楽を加えることによって独特の雰囲気を醸し出しています。ここではチェロのどこかで聴いたような伸びやかなメロディが、まるで童謡のように親しみやすく聴き手に語りかけてきます。



09. Coventry Carol / Paul McCandless
Paul McCandless ; Oboe, English Horn / Mitzi Johnson ; Lute / Hans Christian Rermshussel ; Cello

 ポピュラーなキャロルを、この曲が作曲された当時の雰囲気を伝えてくれるようなアレンジが素晴らしい仕上がりになっています。イエス・キリストが生まれたことを告げる使途による行列の賑わいと、イエス・キリストに託された深い祈り。この両極端な性格を見事に対比させたアレンジは、このアルバムの聴き所のひとつといえるかもしれません。



10. Sleepers Awake* / Andy Narell
Andy Narell ; Lead, Double Second, Quadraphonic. / Tom Miller ; Bass

 スティール・ドラムの奏でる音色は、まるでお伽噺か何かに出てきそうなかわいらしい音色を造り出しています。原曲はバッハのコラール第140番“目覚めよ、と呼ぶ声が聞こえ”で、神を讃える曲もこんなアレンジがあってもいいかもしれません。 とても新鮮なアレンジで、この「新鮮」が純白な白い雪を連想させてくれるのではないでしょうか。



11. Snow Is Lightly Falling / Nightnoise
Triona Ni Dhomhnaill ; Vocals, Piano / Micheal O Domhnaill ; Guitars / Billy Oskay ; Viloin / Brian Dunning ; Flute

 2006年にリーダーだったミホールが亡くなったことを受けてこのサウンドを聴くことは出来なくなりましたが、この頃は、故国アイルランドを離れ、アメリカのオークランドに活動の拠点を構えていたので、遠く離れた故郷の雪景色を思い出しているのでしょうか。哀愁漂うメロディに、リスナーも心打たれてしまうのは、誰の心の中にも、そういった思い出の景色をしまっているからではないでしょうか。ブライアンのフルートが北国の厳しい北風を思わせます。



12. Pavane* / Liz Story
Liz Story ; Piano / Dickran Atamian ; Piano
 ウィンダム・ヒルとしても、リズ・ストーリーにとっても珍しく、ディックラン・アタミアンと二台のピアノによる演奏です。リズの荘厳な和音の進行の中を、鐘の音が鳴り響いてゆきます。
 リズは1994年に『THE GIFT』というクリスマスアルバムをベースのJoel DiBartolo と制作していますが、この『ウィンター・コレクション』シリーズだけでも1枚のアルバムが作れてしまうほどのレコーディングを行っています。


13. In The Bleak Midwinter / Pierce Pettis
Pierce Pettis ; Guitar, Vocals
 冬のアルバムでは通算3曲目となるヴォーカル作品。こちらもアコースティック・ギターによる弾き語りで、ジョンや、バーバラと同時期にヴォーカル・アルバム『WHILE THE SERPENT LIES SLEEPING』(WD-1087)をウィンダム・ヒルからリリースしています。というわけで、この曲は彼のニューアルバムのサンプラーとしての役目を果たしていますが、ここで聴くことのできる歌声は、彼のニューアルバムとはいささか雰囲気のことなるアレンジで、5曲目のJohn Gorga同様、暖炉のような暖かい温もりを真冬の情景を歌っています。

 ウィンダム・ヒルでは、High Street labelというヴォーカル専門のレーベルを新しく立ち上げ、伝統的なアメリカン・フォークを再発見できる内容になっています。



14. In Dulci Jubilo(Good Christian Men Rejoice) */ Michael Hedges
Michael Hedges ; Harp Guitar
素朴な曲であるにもかかわらず、じっくり耳を傾けて聴いてみると驚異的な演奏であることに気がつきます。ハープギターの名手マイケル・ヘッジスが前作に引き続きバッハの作品を、正確には賛美歌第102番“もろびと声あげ”のバッハ版をたった一人でオーバーダビング無しで弾いているのです。いったい何本の旋律が出てくるでしょうか。


15. Earth Abides / Philip Aaberg
Philip Aaberg ; Piano
 空気も凍ってしまいそうな凛とした冷え切った朝。一筋の朝日が差し込んで大気が動き始める。ピアノの透明感のある響きが冬の大気を感じさせてくれます。これから朝が始まろうとする情景を迎えながらアルバムは幕を閉じます。







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