ウィンダム・ヒルの掲示板

DECEMBER PEACE / Stanton Lanier-2009-

Produced by Will Ackerman.
Recorded, Mastered by Corin Nelson.
Recorded at Imaginary Road Studios, Windham Country,Vermont.

 

 

   


01. Jesu, Joy of Man's Desiring
Stanton Lanier; Piano

02. Away in a Manger
Stanton Lanier; Piano

03. In the Bleak Midwinter
Stanton Lanier; Piano / Jill Haley; English Horn

04.Angels We Have Heard On High
Stanton Lanier; Piano / Eugene Friesen; Cello

05.O Come, O Come Emmanuel
Stanton Lanier; Piano

06.Shepherds and Stars
Stanton Lanier; Piano
Noah Wilding; Vocals / Jeff Oster; Fluglehorn / Will Ackerman; Hopi Drum

07.Silent Night
Stanton Lanier; Piano

08.Thanksgiving
Stanton Lanier; Piano / Jill Haley; English Horn

09.Coventry Carol
Stanton Lanier; Piano

10.Awaken The Dawn
Stanton Lanier; Piano
Noah Wilding; Vocals/ Jill Haley ; English Horn
Jeff Oster ; Fluglehorn / Will Ackerman ; Hopi Drum

11.Lo, How a Rose E'er Blooming
Stanton Lanier; Piano

12.Snow Angel
Stanton Lanier; Piano / Eugene Friesen; Cello

13.Little Drummer Boy
Stanton Lanier; Piano / Jeff Oster ; Fluglehorn

14.Silence
Stanton Lanier; Piano

15.Peace
Stanton Lanier; Piano / Noah Wilding; Vocals




ジャケットに映る白い雪原。その白さを音で描くと、こんなにも純白で汚れのないピアノの音色になるんだろう、ということを改めて思い起こさせてくれる名演、名録音です。持ち込まれた楽曲とスタジオの環境が見事に調和して、まさにジャケットに描かれた風景が音楽を奏でているかのようです。この感触(最初の音を聞いたとき、思わず目頭が熱くなる懐かしさ)、1985年の『ウィンター・コレクション』と全く同じでした。

 北風や木枯らしを、寒く辛い季節の使者と言われることがありますが、それは彼らの役割を知らずに、ほほを切るような冷たい感触だけで感じ取ってしまうからに他なりません(私は北風も木枯らしも好きです。言葉の感覚も)。

 オープニングは大バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」で始まります。アルバムジャケットにもバッハのコメント「The aim and final end of all music should be none other than the glory of God and the refreshment of the soul」がクレジットされています。
 この曲がアルバムのオープニングとなるのは、曲の感じからいっても、ごく自然に感じられますが、ウィンダム・ヒル・ファンならば、『ウィンター・コレクション』の一曲目と同じであることに気がつくのではないでしょうか。それはDavid Quaryによるギターの演奏でしたが、そのオリジナルの演奏を聴いたジョージ・ウィンストンが『DECEMBER』を製作し、その『DECEMBER』を聴いたDawn Atkinsonが『ウィンター・コレクション』を製作するきっかけとなったというつながりを思い出すでしょう。Stantonの演奏も、ちょっとこちらの反応を伺うかのようにテンポをゆっくりと、そしてこれから何かが始まる、そんな予感を持たせるかのような弾き始めに、先のコレクションの一曲目と重ね合わせ、思わずニヤリとしてしまいました。
 クリスマスアルバムで良く取り上げられる有名なキャロルも、Stantonの演奏で新しい息吹が吹き込まれ、耳慣れた曲に新しい表情を見せてくれます。それは、毎年葉を落として再び葉をつける木と同じで、同じ曲(木)であっても演奏者が変われば(生え替われば)、決して同じ表情にならないのと同じです。

 共演者はチェロのユージン・フリーゼン。小雪のようなきらめくピアノに対して、ユージンの祈り(それは人の祈りとか、そういった次元ではなく)のような音色からは大自然からの懐の深さ、温もりを感じます。いつでもそこから見守ってくれているかのような。真っ白い雪原を歩いていて、雪に覆われていない(それはぐっしょりと水を含んだ地面だったり、雪が降り積もることのない木の幹だったり)白以外の色を見たときに感じる安堵感に似ています。
 Noah Wildingのヴォーカルは、Jeff Osterのフリューゲル・ホルンとこだまして、谷間からこぼれてくる山の精を擬人化したかのような錯覚に陥ってしまいます。美しく儚い透明感のある彼女の声ははここでも聴く耳を魅了してくれます。
 そしてJill Haleyのイングリッシュホルン。ステージでも共演している関係もあって、スタジオでも息のあったハーモニーを聴かせてくれます。ピアノに添うように、リードを聴かせてくれているわけではないのに、その存在感は楽器ならではの音色のせいでしょうか。

 このアルバムを聴いていると、自分自身が風の舞う視点になって、普段は目に止まらなかったり、感じなかったりした風景の移ろいを感じられるのです。目前に広がる景色が一枚の写真のように切り取られて物語が始まったり、語りかけてきてくれたり。まさにそれはStantonの季節(自然)への優しい眼差しと思いが曲と演奏にこもっているからでしょう。だから、たとえば木枯らしの吹く街並みに立っている冬枯れした街路樹を目にしても、「寂しい」とか「暗い」といった感触は全くなく、梢を渡る北風の片言を聴くような思いがいっそう強くなります。かえって自然の中にいることの温もりや暖かさを感じる感覚が強くなったような気がしました。とくにそういった感覚は、今の季節、秋から冬へ、そして春へと向かうシーズンだからでしょう。なにより私にとってまさに自然との対話が楽しくなる季節だからです。そしてこのアルバムを聴くとき、なによりStantonと同じ季節への憧れを感じることが嬉しく思います。

 このうち1、2、3、4、5、7、9、11、13が古くから知られたキャロル(1はバッハ)、6、12が新曲で、Thanksgivingが「WALK IN THE LIGHT」、Awaken The Dawnは「UNVEILED」、Silenceが「STILL WALTERS」、そしてPeaceが「THE VOICE」にそれぞれ収録されていた楽曲の再録です。昨年、ウェブ上では「Emanuel」というピアノソロ曲をフリーでダウンロードできたので、それと合わせれば16曲を楽しむことが出来ます。




Stantonから届いた荷物の中には新しくリリースされたアルバムの他に、前作『UNVEILED』のリリース時に収録されたライヴDVD(プレゼントしてくれました!)が入っていました。

Photo by Toshiharu Minagawa

Stanton Lanier(Official)

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