ウィンダム・ヒルの掲示板


Photo by Toshiharu Minagawa.




A WINTER'S SOLSTICE V



Produced by Dawn Atkinson.

1995 Windham Hill Records.


 前作『A WINTER'S SOLSTICE IV』とうって変わって“これぞウィンダム・ヒル”という快心の一枚。表向きはジャケット右端にあるレーベルのロゴが変わったぐらいで、タイトルの文字フォントや内容も初期のシリーズのデザインが復活しました。そして収録曲もアンサンブルより、ソロやデュオといった初期に見られたシンプルな編成が中心になっています。また、昔からのファンにとっては、アレックス・デ・グラッシがレーベルに戻ってきたり、ジョージ・ウィンストンが初参加だったりと話題に満ちた第5集だったのではないでしょうか。毎回リリースされる度に、収録曲や、アーティストクレジットを見るのが楽しみで、まさに季節外れのクリスマスプレゼント(このシリーズは夏にリリースされていた)になっていたのです。

 『IV』との間にレーベルからはこのシリーズ以外に2枚のクリスマス曲集がリリースされています。1994年の『THE GIFT』(リズ・ストーリー)、1995年の『CELTIC CHRISTMAS』(ナイトノイズのマイケル・オドネルがプロデュースしたケルティック・アーティスト達によるクリスマス・アルバムのシリーズ第一弾)です。



01. The Simple Birth / Barbara Higbie
Barbara Higbie ; Celtic Harp, Violin, Piano, Bouzouki, Synthesizer, Voice
Nina Gerber ; High-Stung Guitar, Bouzouki / Dawn Atkinson ; Voice
 オランダに伝わるキャロルを、バーバラ・ヒグビーがハープ、ヴァイオリン、ブズーキ、シンセイサイザーをいつものように一人で多重録音しています。今回はニナ・ゲーバーがギターとブズーキ(ギリシアの民族楽器で8弦ギター)、プロデューサーのドーン・アトキンソンがヴォーカルでさりげなくサポートをしてくれました。遠くから響いてくる聖者の行進? それとも冬の到来を告げる北風の舞? ブズーキのリズムに導かれてハープ、ヴァイオリンが伸びやかに赤児の誕生を祝い祈りの歌を歌います。
喜びと活気に満ち溢れた、まさにオープニングにふさわしい曲といえるでしょう

 
02. The First Noel / Tracy Silverman & Thea Suits-Silverman
Tracy Silverman ; Violin, Electric 6 String Violin, Keyboard / Thea Suits-Silverman ; Flute
 おしどり夫婦であるトレイシーのヴァイオリンとシア・スーツのフルートのハーモニーが、賛美歌103番“まきびと羊を”を心温まるアレンジで演奏しています。この汚れを知らぬようなハーモニーの響きは、まるで一夜のうちに降り積もった新雪のように清々しく無垢な子供の心のように、どこまでも澄んでいます。
 
03. Light And Song / Will Ackerman
Will Ackerman ; Guitar / Eugene Friesen ; Cello
 暖炉の火、薪のはぜる音、炎に揺らめく影。そんな暖かい色と情景の中に身をおいているかのような雰囲気を持つギターとチェロの音。時折り、炎の中に見える過去の思い出を振り返るように立ち止まるギター。それを勇気づけるかのようなチェロのメロディ。クレジットではアッカーマンのソロ名義になっていますが、共演しているチェロのユージン・フリーゼンとの共作。ユージンは1987年にピアニストのスコット・コッスとのデュオ・アルバム『REUNION』(WD-1087)をリリースして以来の登場です。スコットと同様、ここでもディープで伸びやかなチェロの響きを堪能することが出来ます。
 
04. The Holly And The Ivy / Alex de Grassi
Alex de Grassi ; Guitar
 前曲の雰囲気を一掃するかのように、デ・グラッシのギターが賛美歌第二編第217番“柊と蔦”を、キャロルらしく小回りを利かせた演奏で登場します。それは様々な雪遊びに興じる子供たちの歓声のように。ジョージ・ウィンストンが『DECEMBER』の中でも取り上げていた曲でもあり、ギターとピアノとの聴き比べも楽しいでしょう。
 
05. Joy To The World / Jim Brickman
Jim Brickman ; Piano
 1994年に『NO WORDS』、1995年に『BY HEART』でウィンダム・ヒルからデビューしたジム・ブリックスマン。2003年秋にようやく初来日を果たしてくれました。自作ではなく、しかも万国で歌い継がれている非常に有名な賛美歌112番“もろびとこぞりて”を提供してくれました。シンプルな曲ほど演奏が難しいものですが、何の気負いもなくさりげなく弾いてしまうあたりは、かえって新鮮な冬の空気に触れているようで、清々しく耳に響いてきます。
 
06. The Sussex Carol / Nightnoise
Micheal O Domhnaill ; Guitar, Whistle, Piano / Brian Dunning ; Alto Flute
Johnny Cunningham ; Fiddle
 アイルランドに伝わるキャロルを聴くなら、なんといってもナイトノイズの演奏が一番でしょう。遠い国の歌なのに、なぜナイトノイズが奏でると懐かしさが込み上げてくるのでしょうか。今回のレコーディングにトリーナは参加していませんが、マイケルのつま弾くギターの暖かい温もり、ブライアンの吹くフルートの郷愁を誘うメロディ、そしてジョニーのフィドルの北国の響きを堪能できます。
 
07. O Come Little Children / We'll Dress The House / Liz Story
Liz Story ; Piano
 1994年にリリースされたクリスマス・キャロルを集めた素敵なアルバム『THE GIFT』からの選曲で、欲を言えば未収録の曲を提供して欲しかったところ。なぜなら、リズのキャロル集を聴いていると「もっと別の曲を聴きたい」という思いに駆られるからです。
 同じピアノという楽器を弾いていてもアーティストの個性というものがあって、ジム・ブリックスマン、フィリップ・アーバーグそしてジョージ・ウィンストンと、彼らにはそれぞれに独特のタッチや色、匂いがあります。そんな個性溢れるピアニストたちを一枚のアルバムの中で聴き比べることが出きるのも、このシリーズの楽しみといえるでしょう。
 
08. My Heart Is Always Moving / Oystein Sevag
Oystein Sevag ; Church Organ / Maria C. Mayer ; Violin
 最初はピアノ・ソロ、次はコンピュータ・・・。アルバムに参加するたびに何をするか予想できないオイスティン・セパーグ。今回はヴァイオリンのマリア・C・メイヤーをフューチャーしてノルウェーに伝わるキャロルをプレゼントしてくれました。驚いたことに南ドイツのベトベルク教会のオルガンを弾いているのです。当然オルガンは動かすことができないので、レコーディングは教会で行われました。演奏者である2人はライナーノートに「この時の経験で得た喜びと静寂に満ちあふれた体験を、リスナーと分かち合えたら」とメッセージを残しています。このシリーズでパイプ・オルガンは初登場ですが、襟元を正して聴きたくなるような敬虔な響きを耳にすることでしょう。
 
09. Angels We Have Heard On High / Windham Hill Artists
Philip Aaberg ; Piano, Synthesizer / Barbara Higbie ; Celtic Harp / Ben Leinbach ; Snare Drums
Michael Manring ; Fretless Bass / Andy Narell ; Steel Drums / Jackeline Rago ; Drums /
Jim Rothermel ; Sopranino Recorder / Turtle Island String Quatet
 前作と同様、レーベルを代表するアーティストたちが交互にメロディを奏でる豪華な曲。今回参加しているのは、フィリップ・アーバーグのピアノ、バーバラ・ヒグビーのハープ、マイケル・マンリングのベース、アンディ・ナレルのスティール・ドラム、タートル・アイランド・クワルテット、ジム・ロザーメルのソプラノ・リコーダーです。そしてそのリコーダーが曲をリードし、賑やかカーニバルを思わせる演奏です。 オリジナルは賛美歌106番“荒野の果てに”。
 
10. Shepherds' Rocking Carol / Philip Aaberg
Philip Aaberg ; Piano
 にぎやかなカーニバルを思わせる曲のあとにやってくるのは静寂。ゆりかごを揺らす母の手。安心して眠りにつく子どもたち。町を飾った色とりどりのネオンに代わって、冬の星たちが町全体を見守るように瞬いています。このシリーズでフィリップがキャロルを演奏するのは初めてのことです。
 
11. God Rest You Merry,Gentlemen / Steve Erquiaga
Steve Erquiaga ; Nylon-String Guitar
 このシリーズに参加して以来、独特のナイロン・ギターの調べをプレゼントしてくれているスティーヴ・アキアーガが、今作では珍しく速いパッセージが特徴の演奏で、今までと違った情景を思い起こさせてくれました。曲は賛美歌第二編128番“世の人忘るな”です。
 
12. Snow In The Prairies / Torcuao Mariano
Torcuao Mariano ; Acoustic Guitars, Keyboards
 夜露で曇った窓の向こう見える一家の団らん。平和なひととき。この瞬間、世界中が平和であることを祈りたくなります。10曲目に収録されているフィリップ・アーバーグの作品と同じ性格ではないでしょうか。そんないい気分にさせてくれるギターを弾いているのはトルクアート・マリアーノです。
 
13.Doo'iit'saa'da(Another Silet Night) / Dauglas Spotted Eagle
Dauglas Spotted Eagle ; Native Flutes, Percussion, Synthesizers
Vince Frates ; Piano / Mt.Olimpus String Quartet
 デビュー・アルバム『CLOSER TO FAR AWAY』をリリースする前に参加してくれたのはダグラス・スポッテッド・イーグル。ピアノが乾いた赤い大地にも粉雪を降らせ、まるで人の声を思わせるようなネイティヴ・フルートが素朴なメロディと優しく温もりのある音色を奏でます。遠くナヴァホ族に古くから伝わる曲に“もうひとつの聖夜”と名づけ、時間を超えてプレゼントしてくれました。
14.Poli'ahu-The Snow Goddess Of Mauna Kea / Keola Beamer with George Winston
Keola Beamer ; Hawaiian Slack Key Guitar / George Winston ; Piano
 ハワイアン・スラック・ギターの名手ケオラ・ビーマーと、このシリーズ初登場のジョージ・ウィンストンの2人が共演した異色のクリスマス・ソングでアルバムは幕を下ろします。ケオラは、ハワイの先住民が産み落とした雪の女神ポリアフをモチーフに、マウナケアに対する畏敬の念を曲に盛り込み、神秘的な曲を提供してくれました。このシリーズでは今までになかった異色とも思えるクリスマス・ソングです。



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