〜1837年作曲〜
リストとショパン。パリでこの二人の饗宴が実現していたら、さぞかし音楽史のエピソードとしては面白かったんじゃないかなぁ、と思わせる企画でしたが、あいにく実現しなかったようです。ベートヴェンの『ディアッベリ』も、ディアッベリの依頼で複数の作曲家たちが集まって一つの組曲を完成させるというイベントでしたが、この『ヘクサメロン』も同じように、クリスティナ・トリヴルツィオ・ベルジョイオーソ侯爵夫人がリストへ発案したことがことの発端でした。構成は以下の通り。
Introdution - Tema. AAllegro marziale(フランツ・リスト)
クラウディス・タンスキー
Variation 1: Ben marcato(ジギスモント・タールベルク)
Variation 2: Moderato(フランツ・リスト)
Variation 3: I. Di bravura(ヨハン・ペーター・ピクシス)
- Variation 3: II. Ritornello(フランツ・リスト)
Variation 4: Legato e grazioso(アンリ・エルツ)
Variation 5: I. Vivo e brillante(カール・チェルニー)
- Variation 5: II. Fuocoso molto energico(フランツ・リスト)
Variation 6: I. Largo(フレデリック・ショパン)
- Variation 6: II. Coda(フランツ・リスト)
Finale. Molto vivace quasi prestissimo - Allegro animato
(フランツ・リスト)
リストが中心になり、それぞれの変奏を別の作曲家が捜索し、つなぎもリストが手を加えたとのこと。テーマとなっているのはヴィンチェンツォ・ベッリーニのオペラ『清教徒』中の「清教徒の行進曲」で、とってもリスト的(笑)なお、このアルバムでは初演に倣って6人のピアニストたちが共演しています。その6人のピアニストは以下の通り。
ヨハン・ブランシャール(Johann Blanchard)
レオン・ブッヘ(Leon Buche)
※このピアニストは兼作曲家らしく、最後にHexameron over the cloudsという曲を自演しています。
カルロ・ゴイコエチェア(Carlos Goicoechea)
カロリーヌ・セリュー(Caroline Sorieux)
吉兼加奈子(Kanako Yoshikane)
※ザルツブルク・モーツァルテウムに在学中に参加。ヘクサメロンの他チェルニーによる「シューベルトの有名な主題による変奏曲Op.12」をレコーディング。
クラウディス・タンスキー(Claudius Tanski)
残念なのは、その6人の作曲家に対応した演奏ではないことかなぁ。せっかくだからリストならリスト役とかに徹した方が面白かったのに…
ちなみに、この1837年には「ピアノの決闘(リストvsタールベルク)」が行なわれ、差し障りのない引き分けの結果になったとか… (タールベルクは世界一のピアニスト、リストは唯一のピアニスト)
私がこのアルバムで興味をひかれたのは、イタリアでもヴェルディを中心とした『レクイエム』の合作があったように、元々は複数の作曲家たちが集まって一つの組曲を完成させる、ということよりも、余白に収録された、それぞれの作曲家たちのソロ作品。特に当時リストとピアニストとしてライバル同士だったタールベルクの♪夜想曲 ホ長調 Op.28です。なかなかレコーディングに恵まれない作曲家とのことで、このアルバムで初めて彼の夜想曲を耳にすることができました。
彼は他にもOp.16(2曲)、Op.21(3曲)、Op.35(2曲)、Op.51bisに夜想曲を残し、計9曲作曲してくれています。
なお、このアルバムではMDGレーベルのピアノ作品らしく1901年製のスタインウェイを奏でてくれています。(Steinway Concert Grand Piano D, 1901 #100938 "Manfred Burki")