星と天界の音楽と(星のソムリエ®のブログ)

長久保赤水(1717-1801)
享保元年- 寛政十三年
 農家に生まれながら苦学して後に水戸藩に登用され、地理学者として当代の第一人者となった。赤水の「日本輿地路程全図」は安永8年(1779)に刊行されたが、これは従来の日本における幼稚な地図の水準を抜く立派なもので、伊能忠敬が幕府の事業として完成させた全国実測図以前のものとしては最高の地図であった。しかも伊能図は幕府が公開しなかったので明治以前には赤水の地図が市民にとって最良の地図と言えるものであった。赤水は安永3年(1774)に「天象」といういう初心者むけの天文書を著した他「天文星象図」を刊行し、「大日本史」の地理の部を担当した

----天文学人名辞典 天文学年表  中山茂編(恒星社)より

 長久保赤水は1717年、常陸国多賀郡赤浜村出身で農民の子として生まれ、地理学者、儒学者としての生涯を送りました。現茨城県高萩市赤浜が出身地ということになります。私は千葉の人なので、利根川を挟んだ北の国の人、ということになります。

 私が彼の存在を知り興味を持つことになったのは、それまでも多くの人がそうであるように『改正日本輿地路程全図』という、ほぼ日本列島の骨格を表した地図を伊能忠敬より42年も前に完成させた「地図」の存在でした。

 しかし、歴史(?)は皮肉なストーリーを描きだしました。私でも知っていた伊能忠敬の『大日本沿海輿地全図』は、学校の教科書にも取り上げられるほどの存在として、今でこそ知られた存在でしたが、江戸時代には国家機密扱いされほとんど表に出ませんでした。それに対して赤水の作った『赤水図』は、江戸時代に流行った庶民の旅には欠かすことのなかった必携書としてベストセラーに。大阪で出版され、使い勝手の良い地図を発行した水戸藩(水戸黄門でお馴染みの水戸光圀がいた)の名が全国に知れ渡たりました。それなのに、今の今まで、ほとんど知られていないのはどういうことなのでしょうか?

 顕彰会の中では、こう記されています。

 「庶民に愛用されたばかりか、あの幕末動乱期に無くてはならぬ指導者たちの必需品の一つだった」それなのに評価されなかったのはどうしてか?「明治新政府の御用学者たちが、すべて西洋の科学の眼で見、あれは地図ではないと判定したからであろう」と。

 そんなことから、地元以外では名前すら忘れ去られてしまいそうな存在になってしまったようです。そこで赤水の偉業を讃えるべく1992年に長久保赤水顕彰会が発足しました。



その先を往け! 日本地図の先駆者長久保赤水

(茨城県高萩市公式チャンネル)



長久保赤水の墓(茨城県高萩市赤浜7)











長久保赤水記念館(茨城県高萩市高萩8−1)


長久保赤水像(茨城県高萩市高萩1928)
駅前ロータリーは「ラウンドアバウト」の構造をしていました

 隣の千葉から車で3時間ぐらい。個人的な好みで言えば、同じ陸続きの土地へは、極力自ら運転する車で行きたいと思っています。さて、今回は目的地到着の前に、「星を祀った神社」があることがわかり、まずはそこへ行ってから現地入りということになりました(大甕神社、茨城県日立市)。

 天文関連での関わりで言えば「小惑星ナガクボ」が誕生した2016年でさえ、私は全くご存知ないという有様…(言い訳するなら、この時はまだ日本の天文学には興味を持っていなかったのです… 言い訳)。

  初めて名前を耳にした時は「伊能忠敬に先駆けて日本全図を作った」という、ごく一般的なイメージがあったぐらいだったでしょうか。ただ、その地図の中に「竹島」が記載されていることに興味を持ち、直接天文学とは関係がなかったものの、伊能忠敬よりも前に竹島に言及している資料がありました、といった旨のお話しをさせていただきたのが、最初の出会いでした。

 そこで終わっちゃうとそれまでですが、現在の私は江戸の天文学に飢えている真っ最中なので、そこそこ関わりがあるのでは? と私のアンテナに引っかかった人物を現地にまで行って(簡単にいうと、お墓参り…)情報を得ることがマイ・ブーム。だから、常にアンテナを張るようにしているのですが、時すでに遅し。だいたい私が興味を持ったこれまでの偉人たちは、その直前に科学博物館などのような場所で「特別展示会」のようなことが行われていたということです。 この長久保赤水も2018年に『いったい何者?江戸の地図男!長久保赤水展』が開催されていたのです(全く知らなかった…)。

 私のような星好き人間が想像すれば「伊能忠敬」が各地に出向いて北極星の緯度を測る「天測」によって正確な日本地図を作った人というイメージを持っていると、やはり伊能忠敬と同じく天文に精通していたのではないかという想像が膨らみます。なので興味が湧いてきたのです。どんな人だったんだろうとネットで調べてみれば、お隣の茨城の人なので、ひょいと行くことができる距離ということで、行ってきました(日本国内ならばどこでも、ね)。

 今回も休日の時間を縫って現地に足を運びました(天気良くてよかった)。その際、あちこちネットサーフィンした中で『長久保赤水顕彰会』というサイトを見つけ「おすすめコースはありませんか」というメールを送ったところ、なんと会長の佐川さんから「案内しますよ」という返事が届きました。ちなみに「顕彰」とは「優れた功績などを広く世間一般に知らせること」といった意味で説明されますが、彼のことを考えるとまさにぴったりの団体名です。

 実は佐川さんから連絡をいただいたのはいろいろあって(佐川さん談)、すでに現地に到着して幾つかの場所を巡っている時だったのでした。その後、メールでのやり取りの後、長久保赤水記念館(高萩市歴史民俗資料館)で待ち合わせをすることになりました。
 赤水の墓所から記念館まで、車で10分ぐらいで到着。資料館へ行くと受付の方が「会長、皆川さんがいらっしゃいました」と、資料館の中を案内してくれ、ニコニコと待ち受けてくれた佐川さんとご対面です。

 さほど展示室で待ち受けていたのは「赤水図」の現物。私は「天文との関わりで積水に興味がある」旨を伝えていたので、まずはそこから案内していただけました。そして、自分の中では、とりあえず事前に調べていた情報と照らし合わせつつ、会長の生解説に耳を傾け、展示資料を確認します(なんと贅沢な時間でしょうか)。まだ手元に資料がない(現地にてさまざまな資料を仕入れとようと思っていたのですが、佐川さんからは出版物や会誌、地図のレプリカなどをいただいてしまいました)ところから始まったので、目の前で紹介される現物は、まさに初見のものばかり。歴史の重みを感じるとともに、良くもここまでの資料を残してくれていたなという、佐川さんをはじめとする方々の赤水に対する思い入れに感謝するしかありません。今ふうにいうなら「赤水愛が強い」というのでしょう。

 会長もおっしゃっていましたが「まだまだ知名度が伊能忠敬に比べると低い」とのことで「もっと世間に赤水のことを知ってもらいたい」。私も彼の業績を知ってしまった今は「なんでこれだけの業績を残したのにあまり知られていなかったんだろう」という疑問が湧きました。私の場合は自分から調べに行った先に、今回知ることになった顕彰会などの存在を知ったのですが、それを知ることができたインターネットという武器が今後も役に立つのだろうと思います。 あとは地道な作業になりますが、私の場合は、自分の講座の中でどんどん彼の業績を紹介し続けることではないでしょうか? そうすれば「伊能忠敬の」といった言葉も外れて、やがて独り立ちして、また一人世界に向けて偉人が海外にも紹介されていくのではないかと思います。

 きっかけはなんであれ、 茨城県高萩市公式チャンネルで視聴できるその先を往け! 日本地図の先駆者長久保赤水の中でも和泉元彌さんが感想を述べているように、「地元の人だけでなく、日本中の皆さんが、世界に対して長久保赤水を知っていますよ、って言えるようじゃないといけないですよね」に尽きると思います。私もこれから佐川会長からご提供いただいた資料を熟読して、少しでもお役に立てるよう、私も彼の名前を紹介し続けようと思います。少なくとも、このページに足を運んでいただけた方には、インプットされたかと思います。長久保赤水は知っています、と。

追伸:阿刀田さん『長久保赤水を知っていますか?』を書いてくれませんか?






タイトル/著者 タイトル/著者/出版社(出版年)/ISBN  
改正日本輿地路程全図(原寸版レプリカ)
長久保赤水顕彰会(2025)


 まずは赤水が出版し、今では国の重要文化財に指定された『改正日本輿地路程全図』を見ずして赤水は語れないのではないでしょうか?令和7年(2025)に原寸大のレプリカが出版されていますので、実際に手に取って、その細かい記述に感動せずにはいられません。地元の記念館では現物を見ることができるので、最終的には、現物を見ることをおすすめします。




★天文学
タイトル/著者 タイトル/著者/出版社(出版年)/ISBN  
天文学史と長久保赤水
川口和彦/著
長久保赤水顕彰会(2024)
ISBN978-4-9912295-4-1


 肩書きが地理学者、儒学者と紹介されていますが、赤水の業績はそれにとどまらず、天文学の世界にも大きな足跡を残してくれました。これはではほとんど知られることがなかった業績が、初めて天文学から語られることになった重要本です。
長久保赤水の天文学
川口和彦/著
長久保赤水顕彰会(2021)
ISBN978-4-9907959-8-6
 
小わく星ナガクボ
ときさき きよし/著
長久保赤水顕彰会(2023)
ISBN978-4-9912295-2-7
 





★書簡集
タイトル/著者 タイトル/著者/出版社(出版年)/ISBN  
長久保赤水書簡集
長久保赤水顕彰会
高萩郷土史研究会(2016)
ISBN978-4-9907959-1-7


 
續長久保赤水書簡集
長久保赤水顕彰会
高萩郷土史研究会(2016)
ISBN978-4-9907959-1-7
 南極老人星カノープスに関する記述があり、大変興味深い内容となっています。星好きなら読んでおく必要があると思います(笑)。
續續長久保赤水書簡集
長久保赤水顕彰会
高萩郷土史研究会(2019)
ISBN978-4-9907959-5-5
 






★そのほか
タイトル/著者 タイトル/著者/出版社(出版年)/ISBN  
道知るべ
續 長久保赤水の一生
原ヤスタカ/マンガ作成
長久保赤水顕彰会編(2021)
ISBN978-4-9912295-4-1

 
長久保赤水と伊能忠敬の二度咲き人生:
日本地図づくりに賭けた二人の男
岡村 青/著
共栄書房(2025)
ISBN978-47634112-4-2
 人生を二倍楽しんだ達人二人、その生きざまに迫る 江戸時代、緻密な測量で現代にも通用する水準の地図を作った伊能忠敬、それに先駆け、使う人の身になったベストセラー実用地図を作った長久保赤水。
  農民出身、本業リタイア後に50代から地図づくりに着手するなど共通点の多い二人は、なぜ誰も成し得なかった大仕事ができたのか? 苦悩と歓喜に満ちた、知られざる二人の物語を紐解く (共栄書房)
りゅうのひかり
ときさき きよし/著
長久保赤水顕彰会編(2020)
ISBN978-4-9907959-6-2

 「りゅうのひかり」とは『改正日本輿地路程全図』や『東奥紀行』、『赤水図(第2版)』、『東北南部から近畿図』に記載のある閼伽井嶽龍燈のこと。帯にも書かれているように、「不思議をみつけて、不思議のままに楽しみ…」とあります。現代人が読めば、きっと科学的にこれは「狐火だ」とか考えを巡らせてみるのではないでしょうか? 「地図の赤水さん」がみつけた不思議。そっとしておきたい不思議な物語です。遠野物語や、異能物の怪録など大好きな私にとって、こうした記録を残してくれた赤水さんに、ますます惚れ込んでしまいました。

長久保赤水顕彰会長久保赤水先生銅像建立実行委員会

長久保赤水の書籍をデータベースで見る

改正日本輿地路程全圖(国書データベース)

長久保赤水関係資料(文化遺産オンライン)



『小わく星ナガクボ』ときさききよし
長久保赤水顕彰会(ISBN 978-4-9912295-2-7 C0721)





佐川会長、ありがとうございました(2026/02/23)。

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