うみへび座(海蛇座)
学名:Hydra
20時南中:4月25日

★写真をクリックすると星の結び方が現れます。ただし、この結び方には決まりがありませんので、ここで紹介している結び方が正しいというわけではありません。

 うみへび座は全天一大きな面積を占める星座なので、いざ写真に撮ろうと思ったときには、その全景を撮ることが難しく、タイミングを逃すと、今回のように頭部の部分しか撮ることができませんでした。

 この星座の全長は102°もあるために、尻尾ができるためには7時間近く待たなければなりません。星座の出発点となる頭部は、冬の天の川の東岸に輝くこいぬ座のプロキオンにねらいを定めてその口を大きく開き、鎌首を持ち上げています。そして尻尾はてんびん座まで達していまるという巨大さ。

 なぜこんなに長くする必要があったのでしょうか?確かに、ギリシア神話ではレルネーの谷に住んでいたといわれる怪物ヒドラです。日本の神話に登場する「やまたの大蛇」にも似て、ギリシア神話最大の英雄ヘラクレスに退治されるほどの大蛇であったわけですから、その姿は、とにかく記憶に残るほどの大きさにしたかったのでしょう。

 しかし、実際は神話に当てはめるだけの姿にしたかったという理由の他に、「長くしなければならない」理由がありました。

 今から6000年以上昔の星座が作られた頃、このうみへび座 はもっともっと北よりに位置していたことがわかっています。現在は南半球の空に位置していますが、その頃のうみへび座は天の赤道に巻付いていたのです。

 どういうことかというと、地球の地軸のコマ振り現象(歳差)によって、当時の星空はどんどん南へ移動してしまいました。星座が作られた当初の位置と比べると、そのほとんどが、はるかに南下してしまい、現在は作られた頃の意味がほとんどなくなってしまったのです。(歳差は、約26000年で一回転します)

 天の赤道は季節に関わらず、そして地域に関わらず、真東から真西に伸びています。うみへび座の配列を、天の赤道に絡めることで、海や砂漠を行き交う旅人や商人たちは正確に方角を知ることができました。真西に伸びる鎌首、真東を指し示すしっぽ。つまり暗闇での旅路を助ける道標にするためには、首と尻尾が真西と真東を指し示す姿に配置することが必要だったのです。こうすることで暗闇を行き交う人々の道標となり、どれほどの明かりを投げかけてくれたことでしょうか。

 現在まで、古代の人たちが知恵を出し合って描き出した星座が残っていられたのは、こうしたメッセージが星座の中に込められ、それが延々と人々の生活の中で生きてきたからではないでしょうか?

 それはそうと、日本語名の海蛇というのはどうも不自然で、学名のヒドラをそのまま名前にしても良かったのではないかと思いますが、とにかく、この主の正体はギリシア神話では九つの頭を持った怪物ヒドラです。遠く隔てた日本の神話にも登場する「やまたの大蛇」と良く似た姿をしていますが、画家のオーギュスタン・モローの描いた情景がもっとも有名かもしれません。

 α星のアルファルドは“孤独なもの”という意味のアラビア語ですが、その名の通り南の空に、いかにも一人寂しく輝く2等星です。実体は太陽の200倍以上もるため、170光年も遠方にありながら1.98等級で輝いています。この星には別名にコル・ヒドレ“ヒドラの心臓”という名もあり、これはティコ・ブラーエが名づけました。これだけ広大な広がりを持つうみへび座ですが、固有名を持つ星はこれ一つしかありません。確かに「孤独なもの」にふさわしいかもしれません。