1984年に発表された冨田勲のニューアルバムの冒頭には奇妙な音が入っています。それを専門家は暁の合唱(Dawn Chorus)と呼んでいます。レイチェル・カーソンの著作の中にある『センス・オブ・ワンダー』にもDawn Chorusについての記述があります。 しかしこちらの合唱は早朝の鳥たちのさえずりのこと。このアルバムの中に入っている合唱は、暁の時にだけ聴くことのできる太陽からの音。その他にもこのアルバムの音は全てが電波天文台で採取した星の光度変化を波形にしてシンセサイザーの音源に置き換えています。たとえばストリングスセクションだったら しし座のAD星、オリオン座のV371星、とかげ座のEV星オーボエは くじら座のUV星、ハープシコードははくちょう座SS星とうみへび座V星といった具合。これらの星の光度曲線が実際の楽器の奏でる音に近いカーブを描いているそうです。 氏曰く “我々が日常手にしているレコードやテープもそれ自体は音波、すなわちサウンドではないしサウンドを発することもできない。それはオーディオ機器を使用することによって初めてそのスピーカーやヘッドフォンからサウンドとして聴くことができるのだところが一般では「あのレコードのサウンドは…」とか「このテープに収められたサウンドは…」なんていう言い方をしているそうであれば、かりにそれが電磁波や光の状態であっても「宇宙のサウンド」という言い方をしても良いのではないか果てしない宇宙から地球にやってくる様々なウェーブの中にはそのままオーディオ機器を通しただけで心地よく聴けるサウンドもあるからだ(BVCC-2511より)” このアルバムはそんな音源を使ってクラシックの名曲を演奏しています。まさに天界の音楽と言えるのではないでしょうか。冨田勲の造り出すサウンドはどれも宇宙っぽい感じがするので。どのアルバムも星空を眺めるには向いていると思います。ここでは特に宇宙を題材にしているアルバムをご紹介します |
Dawn Chorus(1984) |
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冒頭に聞こえてくる鳥のさえずりのような音。これが太陽から地球に降り注いでいる生の音。他にもいくつか宇宙から届いた生の音が入っています。人間は空気を伝わってくる音にしか反応しませんが、別の聴覚を持っていると想像以上に宇宙は騒々しいことがわかります。それらの雑音を心地よい楽器に近い音に変換した冨田氏の発想は常人では考えられません。東京天文台の森本先生が呆れるのも無理はありませんが、こうして届けられたアルバムを聴くと、氏は天界の音楽を聴くことができる人だということがわかります。 A面は全曲ブラジルのバッハという異名を持つ作曲家ヴィラ=ロボスで統一されています。この選曲は非常に意外(彼の著作やトーク番組のコメントでは一切口にすることのなかった作曲家だったので)でした。B面はバロックを中心とする名曲集で構成されています。 |
惑星(1976) |
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アメリカでは既に爆発的な人気を勝ち取っていたトミタ・サウンドでしたが、この日本でも人気のあるホルストの『惑星』を発表したことで日本でも火がついたようです。一般に、この楽曲はホルスト自身が「どんなことがあってもバラバラに演奏したり、編曲の手を加えてはならない」と明言していたため、遺族が管理するようになってからも、それはかたくなに護られ続けました。 冨田氏がどういう経緯で許可を得たかはわかりませんが、大変な苦労を払ったようです。これは推測でしかありませんが、制作した音源を聞かせて説得したのではないかと思われます。なぜならこれはホルストの惑星ではなく、もはや『トミタの惑星』になっているからです。白眉は天王星と海王星のオーバーラップする編曲でしょうか。 |
宇宙幻想(1977) |
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4枚目のアルバムまでは、いわゆるアナログ的なシンセサイザーだった音に対して、この5枚目の作品から一気にデジタル的な音に変化しました。悪く言うと、今までのトミタ・サウンドと違って、音のパレットが減色したようなイメージがあります。きっと技術的な問題もあるでしょう(氏は機械大好き人間ですから、最新鋭の機械には飛びつくのではないでしょうか)。 |
バミューダ・トライアングル(1978) |
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いきなりUFOに(連れ去られ)登場しているシーンから音は始まります。冒頭シーンでは、パソコンにつなぐとモニターに「あなたはUFOにつれさられました」というメッセージが英文で流れるという仕掛けがありました。 トミタ・サウンドでは最もSF的で凝った内容のこのアルバムは、いままでの20世紀前半の音楽ばかりを題材にしていたものと違って、プロコフィエフの作品が大きくフューチャーされていることと、各曲に冨田氏の発案によるタイトルが付けられていることが特筆すべきでしょうか。たとえば“シベリアのツングースに落下したのことある金色にまばゆく光る物体”のように。(レビュー) |
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