映画などにクラシック音楽が使われるようになったのは、1968年に4月6日(米国)に公開された『2001年宇宙の旅』がきっかけではないでしょうか? 冒頭やエンディングで使われた(今回紹介する)リヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』は、まさに映画のために作曲された、などと勘違いする人がいたほど、その旋律は、映像と見事に融合していました。この映画では、他にもシュトラウス違いのヨハン・シュトラウスの『美しく青きドナウ』やリゲティなど音楽が使用されています。

 『2001年…』で実際に使われたのはヘルベルト・フォン・カラヤンが1959年、デッカと初契約を結んだ直後にウィーンフィルとレコーディングした音源です。しかし、デッカが「演奏者名を出さないこと」を条件に使用を許可したところ、カラヤンは激怒。また当初は作られなかったサントラ盤には、デッカの音源を使えないところからカール・ベームが1958年にベルリン・フィルとレコーディングしたの演奏が収録されてしまい、のちのち「映画に使われたのはベーム」という噂が立ってしまったとか(サントラに収録されては、誰も疑いませんよね)。

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交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』大いなる憧れについて

 エピソード12【Encyclopedia Galactica】で使用されるこの曲は、セーガン博士が特に強い関心を寄せている地球外知的生命との交信を扱ったエピソード。
 番組冒頭で、およそ科学番組ではタブーとされているUFOや宇宙人に誘拐されたエピソードなどを大胆に紹介しています。この話は、のちのち取り上げることにしましょう。

 さて、この曲が登場するのは、ジャン・フランソワ・シャンポリオンが、ロゼッタストーンをめぐり、自らがエジプトの巨大神殿を前にしたときの心理描写として見事な演出をはたしています(15m00sごろから)。

 単一楽章であるこの交響詩にあって、“
大いなる憧れについて”は、映画で有名になった序奏の“日の出”を含む3曲目に演奏されます。まさにシャンポリオンが昔から憧れていた神殿を目の前にした心境と、それに伴う神殿の壮大さ、そして音楽が巨大神殿のごとく壮大に鳴り響きます。なんと感動的なシーンでしょうか!


 シャンポリオンが、初めてロゼッタ・ストーンを手にしたとき、持ち主であるジョセフ・フーリエに「どういう意味ですか?」と問いかけました。しかし帰って来た答えは「誰にも答えられないのだよ」

 数年後、シャンポリオンは、ロゼッタストーンが発見された場所に赴き、あと1時間という地点までやって来ます。

そして「この誘惑に耐えられるか?」「いや、できない」

 といった日記を付け、案内人を宿泊地に残したまま、自ら松明を手にすると巨大神殿に向かいました。湧き上がる好奇心、憧れの神殿を前に彼の興奮は頂点に達していたに違いありません。ここでの音楽は見事に彼の心象を描き切っています(つられてこちらも前のめりに画面にくらえつくぐらい!)


 その後、夥しい数の古代文字を前にしたシャンポリオンは
「すべて現代語に置き換えることが出きる」
と言って、フーリエに尋ねた質問に、自分自身で答えてしまったのです。 このあたりのシナリオの書き方は、通常の科学番組では味わえない感動を視聴者に与えてくれます。そしてセーガン博士は「現代のシャンポリオン」が、宇宙から届く道のメッセージを、きっと解読してくれるに違いない、と締めくくります。

ゲオルグ・ショルティ指揮/シカゴ交響楽団
 
私のお勧めは、やはり最初に聴いたレコードということになりますが、大オーケストラのための交響詩ということもあり、やはりここは、壮大にこの曲の大宇宙を描くショルティとシカゴ交響楽団による筋骨隆々の演奏を推薦します。冒頭の重低音(この音を再現できるには相当のシステムが必要)から、全強奏まで、完璧に鳴り響かせる演奏は、さすがこの名コンビ!(1973年グラミー受賞)

 グラミーと言うとポピュラーという感がありますが、実はクラシックをはじめとする、様々なジャンルの音楽がノミネートされています。実は、ショルティは歴代の受賞者の中で、もっとも受賞数の多いアーティストです。その数31個は歴代最多。その次に最も多いアーティストですら16個(アレサ・フランクリン)という、輝かしい受賞暦を誇るアーティストでもあります。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団

 さて、せっかくだから映画『2001年宇宙の旅』で使用された音源についても説明しておきます。
 驚異の映像を盛り上げたリヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』冒頭部分ですが、スクリーンで流れたのは、先の説明にもあるとおり、1959年にデッカと契約を交わしたカラヤンがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と最初に取り組み、名プロデューサー、ジョン・カルショウが“創り上げた”こちらの演奏です。
 ややこしいことに、デッカ側がノン・クレジットを理由に使用許可を出したり、その後のサントラ盤にはカール・ベーム指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音源が採用されたことなどにより、長らく、映画で使われたのはベーム盤とされてきました。
 最近読んだジョン・カルショウの『レコードはまっすぐに』の中では、次のように書かれていました。「キューブリックはカラヤンの録音を採用した」「デッカがキューブリックにテープの使用許可を与えるにあたり、デッカやカラヤンの名前を画面に出さないのを条件にした」など。私はカラヤンが1983年にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を振ったアルバムをショルティ以外でよくテーブルに載せているのですが、この記事を読んで、古い音源とはいえ、思わず買い求め、スクリーンと同じ感動を味わっています。

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