ケクランはピアノや、室内楽のこじんまりとした(私が思う所の本来の夜想曲のスタイル…)以外にも、管弦楽のための夜想曲も作曲しています。しかも単に夜想曲ではなく、タイトルに「星空に向かって」と。日本での邦題は「星空の歌」としているようですが。
静かな序奏に始って、だんだんと盛り上がりを見せていく。まさに地上から見上げていた好奇心の眼が、科学の力を身につけ、次第に地球を離れ、世界中の天文学者が解き明かし始めた宇宙の奥行きを表現しているようです。ケクランはそうした観測結果など、友人であり、同郷の天文学者、カミーユ・フラマリオン(1842-1925)から聞かされていたのではないでしょうか? 曲想は
大海原と化した星空へと旅立っていくように感じられます。静かな雰囲気は始ってすぐに終わってしまいますが、なにか宇宙へと向かう映画を見ているかのような雰囲気。たとえば未知との遭遇に近いものがあるでしょうか?
この「星空の詩」は、フラマリオンの思い出に捧げられた管弦楽のための夜想曲なのです。このあたりも私のつぼにしっかりとはまっています。フィールドやショパンのそれとは、私の考えるところの夜想曲と違った意味を持っていますが、ここでは私が求める夜想曲を体現させてくれます。
ケクランはここで紹介した管弦楽曲のほか、ピアノ、もしくはハープ独奏のOp.32と、フルートとホルン、ハープのためのOp.33と魅力的な夜想曲を残しています。また、彼は(本職の?)作曲家という肩書きのほかに天文学者としての顔を持っていることから、その作品には天文学を思わせるタイトル曲を見つけることができます。
なお、ケクランはフラマリオンの天文書を読んで星に興味を持った様ですが、このフラマリオンは火星のカナリ(渓谷という意味)を知的生命、つまり火星人が建設した運河であると主張したことで知られています。また、中世の宇宙観としての挿絵として有名な製作を手掛けた人物でもあるのです。
もう1曲の「ファブリチウス博士」はヨハネス・ケプラーの娘と結婚した天文学者です。この管弦楽曲で使われているオンド・マルトノ(メシアンの「トゥランガリーラ交響曲」が最も有名な曲)という楽器の存在が、強く現代音楽を意識させてくれます。