星語り(星のソムリエのブログ)

イェルク・デームス(1928-2019)

 このアルバムに収録されている夜想曲は2曲。ひとつは作品6の中にある第2曲。そしてもう1曲は、夜想曲と星にまつわる曲を探している私のような人間には涙ものの1曲、夜想曲でありタイトルに「星の夜」とつけられています。これはもう想像できる最大限の曲に違いないと早速取り寄せ、真っ先にこの曲を聴いたのは言うまでもありません。貴重な国内盤の解説を引用すると…

『デームスの創作にとってもっとも重要であった澄んだ空気と美しい景色。隠れ家のロシュモー嬢の庭園の頭上に煌めく無数の星。中間部でのトリルやトレモロは、苦しみや悲しみのある地上の上に幻想的に輝く星を表している。それは、まるでベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタ第30番や第32番に現れるトリルと同じ役割で、天上へと登って行く星への眼差しでもある(ソナタについては、そのようにデームスがよく語っていた)。ベートーヴェンの最後の歌曲「星空の下の夕べの歌」はホ長調で書かれているが、この作品も同調で書かれ、その歌曲の“詩”からもインスピレーションを得たものとなっている。この曲は、デームスの葬儀の際にも流され、本人もこよなく愛した作品である』

 このアルバムに収められている最初の「6つの想い出」を耳にした時に思い出したのは、リヒャルト・シュトラウスのピアノ曲。自然を思い描いたおおらかな曲。アルバム全体に通じるのはシベリウスの自然観…
 
6つの想い出 Op.6(ロマンス/夜想曲/告白/夕べの鐘/カプリース/楽興の時)
変奏曲「ひまわり」Op.12
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番「森のソナタ」Op.48*
(I. 鈴蘭 / II. 森のおとぎ話 / III. 7人の小人 / IV. 森の夜 / V. すずめ)
夜想曲「星の夜」Op.14
さよなら(ピアノ・ソナチネ Op.26より)*


 その夜想曲。このアルバムではピアノソロで演奏されていますが、オリジナルは下のアルバムで、作曲者自身がレコーディングしたチェロとピアノのための作品。作曲者のデームズが静かな夜に見上げた星空が目の前に広がってくるような美しい曲。あちこちでトレモロが奏でられるのは、単なる技巧上の演出ではなく、実際に感じたるままの輝く星々の輝き。レコーディングに使用されたのは、デームズらしく、いわゆる古楽器の部類に入るのでしょう。1913年ごろに製作されたスタインウェイです。過去の星の輝きを思う時、古い楽器の響きは当時の人々の生活感を感じてしまうのは私だけでしょうか?
 



NUIT D'ETOILES
/ WORKS FOR JORG DEMUS



Luz Leskowitz ; Violin
Misa Hasegawa ; Piano

Einsatz Records






NUIT D'ETOILES
/ WORKS FOR JORG DEMUS



Maria Kliegel ; Cello
Jorg Demus ; Piano, Steinway & Sons, c1913

Marco Polo 8.2250.36

詩的ソナタ ト長調 Op.8(Sonate poetique)
愛 Op.21(Amour)
チェロ・ソナタ ハ短調「日没」 Op.35
(I. 日没 / II. すみれ / III. ワルツ「あなたの愛は緑」/ IV. 鳥の飛行)
夜想曲「星の夜」Op.14
 
 デームズの想い出に制作された作品集では、盟友ルッツ・レスコヴィッツのヴァイオリンでしたが、1996年にレコーディングされたコチラのアルバムでは、本人がピアノを弾き、マリア・クリーゲルが1693年製作のすとらディヴァリウス「エクス・ジャンドロン」を奏でています。この頃の天文学の世界ではニュートンやハレー、ホイヘンスらの時代です。

 なお、アルバムジャケットのカバー写真はデームズがザルツブルクで撮影したものです。そういえばデームスはフリードリヒ・グルダ、パウル・バドゥラ=スコダとともにオーストリアのウィーンで活躍した「ウィーン三羽烏」と称されるうちの一人です。グルダはジャズを取り入れてしまう即興的な演奏、スコダは学者肌の解釈で、私をベートーヴェンに引きずり込み、デームズはドビュッシーのソロ全集を完成させたりして、もっとも私の趣味に近いピアニストでしたが、この自然がテーマのアルバムで、より親近感のわくピアニストの一人になってくれました。いずれドビュッシー全集を聴かなくては…


夜想曲リスト