ウィンダム・ヒルの掲示板
Photo by Toshiharu Minagawa.


WH-1077
A WINTER'S SOLSTICE II / Windham Hill Artists
Produced by Will Ackerman, Dawn Atkinson and Cookie Marenco.

01.Gift
02.17th Century Canon
03.Prelude to Cello Suite No. 1 in G Major
04.This Rush of Wings
05.Sung to Sleep
06.E'en So, Lord Jesus Quickly Come/ Dadme Albricias Hijos d'Eva
07.Bring Me Back a Song
08.Salve Regina
09.Chorale No. 220
10.Simple Psalm
11.Flute Sonata in Em, 3rd Movement
12.Come Life Shaker Life
13.Medieval Memory II
14.Abside the Winter
15.By the Fireside

Windham Hill Records, 1988


 ウィンダム・ヒルの顔ともいうべきシリーズで、1985年の続編がリリースされたときは、ジャケットと、その風景から想像できる音楽を想像して、胸の高鳴りが大きかったのを思い出します。この頃のレーベルは、アーティストともども脂の乗っていた時期で、名盤が目白押しでした。このアルバムも、レーベルのカラーが、これ以上に無いほどの完成度を持ち、個人的にはレーベル全作品を見渡しても、10、もしかすると5本指に【ウィンター・コレクション】【ウィンター・コレクション2】を入れてしまうかもしれません。 アルバムの性格上、クリスマスアルバムという位置づけになりますが、タイトルにクリスマスという言葉を入れてしまうと、限定したシーズンにしか聴いてもらえない、と懸念したアッカーマンが、あえて【冬至】という名前にしました。1985年に発表された【A WINTER'S SOLSTICE】は旧作から収録された曲もありましたが、今回はナイトノイズの1曲を除いて、すべてがこのコレクションのためにレコーディングされました。

今回はでレビューしたコメントに加筆・補正しました。*はトラディショナル


01.Gift / Philip Aaberg
Philip Aaberg ; Piano
 凍りつくようなピアノの音色。そして安堵感を誘う和音の展開。かつて自分が体験したかのような記憶を呼びさますような曲です。あたりが暗くなって外に出ることができず、冷たいみぞれ混じりの雨を窓越しに眺めていると、外の街灯や景色が不思議な形に流れてゆく。そんな窓を伝う雨だれを思わせるようなフィリップのピアノの音色は、これから迎える次の季節に必ずやってくる汚れを知らない純白な(ピアノ)雪の景色を予感させます。


02.17th Century Canon/ Paul McCandless
Paul McCandless, James Matheson, Robin May ; Oboe
 ポール・ウィンター・コンソートのメンバーだったオーボエのポール・マッキャンドレスを中心としたトリオによる吹奏楽の調べ。この素朴なアレンジに耳を傾けていると、いったこともない中世の世界が広がってきます。ローソクかオイルランプを囲んでの団欒。ユラユラとした影を作りだしているようです。ポールはこのコレクションのリリースの直前にソロ・アルバム『Heresay』(WH-1075)をリリースしていますが、現在はソロと平行にオレゴンというバンドのメンバーとしても活動しています。


03. Prelude to Cello Suite No. 1 in G Major / Michael Hedges*
Michael Hedges ; Harp Guitar
 ハープ・ギターという珍しいギターを流暢に弾いているのは、超絶技巧の持ち主マイケル・ヘッジス。通常のギターの6弦に加えて別に6弦側に太い低音弦が5本張られており、彼の表現の幅を広げています。(それでもまだ足りないか?)。ここではその低音弦をフューチャーして、心と体に染み込んでくるような演奏をしてくれています。まるでギターがオリジナルであるかのようにバッハの無伴奏チェロ・ソナタを心地よい響きで演奏しています。


04. This Rush of Wings / Metamora
Malcolm Dalglish ; Hammer Dulcimer / Grey Larsen ; Flute / Pete Sutherland ; Fidle, Guitars, Piano
 マルコム・ダグリッシュのハンマー・ダルシマーが氷の粒のような冷たい雪の舞いを描写し、聴き手を肌寒い屋外へと連れ出します。それにかぶさるように奏でるギターと、絡み合うフルートとヴァイオリンの音が、寒さにふるえた身体を暖かく包み込んでくれるよう。
 3年前にリリースされた『ウィンター・コレクション』の中で、ハンマー・ダルシマーのソロが収録され、ピアノとは違った音色に惹かれましたが、そのダルシマーを中心とするこのグループはナイトノイズとはまた違った楽器の組み合わせがユニークです。そしてナイトノイズ同様、この音を聴いていると遠い記憶の郷愁に誘われる不思議な感覚にとらわれます。メタモラはナイトノイズよりもクラシカルな要素が強いグループかもしれません。


05. Sung to Sleep / Michael Manring
Michael Manring ; Piano
 新雪のあとの澄んだ青空のように透明感のあるタッチが初々しいピアノ・ソロ。フィリップ・アーバーグがオープニングで聞かせてくれる世界とは対照的な情景が浮かんできます。しかもこの曲を演奏しているのは、レーベルの屋台骨であるフレッドレス・ベース奏者のマイケル・マンリング。本職ではないプレイヤーにこんな演奏をされてしまったら、レーベル所属のピアニスト達は立場がなくなってしまいそうです(笑)。しみじみウィンダム・ヒルの懐の深さを感じます。なお、この曲は、彼のアルバム『』の中でベースにアレンジし直してレコーディングしているので、聴き比べると面白いでしょう。


06. E'en So, Lord Jesus Quickly Come/Dadme Albricias Hijos d'Eva / Modern Mandlin Quartet
Mike Marshall, Dana Rath ; Mandlin / Paul Binkley ; Mandla / John Imholz ; Mandocello
 前半はマイナー調で寒く厳しい冬の便りを聞かされるようで、冷たい雨に濡れた子供が「これからどうなるんだろう」というような不安な気持ちを。一転して後半はベートーヴェンの田園交響曲の第一楽章のように、目覚めた朝の窓辺に広がる雪景色を見て、今日一日のウキウキした気分を描いているようです。ここでのマンドリンのはじけるような音色は、子どもたちの雪に対する思いを連想させます。まるで根雪を迎えた人々の気持ちと、そのなかでも楽しく過ごそうという人々の心象を描き、どちらの曲(前半、後半)も童心を持ち合わせていないと表現できないようなアレンジに仕上ています。



07. Bring Me Back a Song / Nightnoise
Michael O'Domhnaill ; Guitars, Whistle / Billy Oskay ; Fidle, Keyboard / Triona Ni Dhomhnaill ; Keyboard / Brian Dunning ; Flute
 今作中、この曲のみ彼らの2ndアルバム『AT THE END OF THE EVENING』(WH-1076)に収録されていますが、彼らの紡ぎだすサウンドは、誰もが心の中にしまいこんである望郷の思いを呼び覚ましてくれるようです。ここに聴くトリオナのオルガンを中心にした曲も、晩秋から静かにやってくるの寒くてつらく思えた冬の日の思い出さえ、暖かく、そして懐かしく振り返らせてくれるようです。


08. Therese Schroeder-Sheker ; Harp, Flute, Voice etc.
Therese Schroeder-Sheker ; Harp, Flute, Voice etc.
 ウィンダム・ヒルというレーベルの音楽の多彩さは、このゴシック・ハープの登場でさらに魅力あるものへと向かってゆきます。今まではギターやピアノといった、比較的な地味な楽器による曲ばかりのイメージが強かったからです。この曲は1013年に生まれた天文学者ヘルマヌス・コントラクトゥス(ライヒェナウのヘルマンともいう)の曲で、ゴシック・ハープが主役。しかも途中からフルートが絡み、彼女自身の澄んだリリック・ソプラノが天駆ける天使のような歌声を響かせてくれているのに、たった一人による演奏というのですから驚きです。この曲は“めでたし天の元后”という意味で宗教色が強いのですが、天文学者である作曲家が天啓を受けて作曲したのでしょうか?この曲同様ウィルがプロデュースした『THE QUEEN'S MINSTREL』(WH-1074)も、すべての楽器をテレーズが演奏し、リスナーを中世の時間へとタイムスリップさせてくれることでしょう。


09. Chorale No. 220 / Turtle Island String Quartet*
Darol Anger & David Balakrishnan ; Violin / Irene Sazer ; Viola / Mark Summer ; Cello
 バッハのコラールを弦楽器4挺でシンプルに、しかし荘厳さを失わずに演奏しています。バッハへの思い、クリスマスへの思いがそうさせるのでしょうか。見事にクラシック風に演奏しています(笑)。


10. Simple Psalm / Fred Simon
Fred Simon ; Piano, Keyboards
 マーク・アイシャムに続くシンセサイザー・アーティストで、彼の持ち味はシンセサイザーとピアノのハーモニーでしょう。『USUALLY/ALWAYS』(WD-1071)でも、ここで聴かれるような透明感あふれるシンセサイザーの無機的な音が生のピアノのおかげで実にヒューマン的な響きで心へと染み込みます。鐘のような和音と、まるでエコーか、張りつめた空気のようなシンセサイザー。サイモンはエレクトロニクスとアコースティックを融合させたハーモニーを創り出すアーティストで、このアルバムでも異色の作品になっています。かといって他の作品と比べて浮いているというほどの派手さもなく、当時のレーベルの流れを感じさせる構成と言えるのではないでしょうか。


11. Flute Sonata in Em, 3rd Movement / Barbara Higbie & Emily Klion*
Barbara Higbie ; Piano / Emily Klion ; Flute
 バッハの作品はアーティストにとっては神聖なものなのでしょう。どの曲にもクリスマス(キリストの誕生を祝福する雰囲気)を感じさせます。ここではマルチ・アーティストのバーバラ・ヒグビーが正面から正攻法でフルートの伴奏を務めています。その神聖な気持ちは、この時期ならではのものなのでしょうか。


12. Come Life Shaker Life / Malcolm Dalglish*
Malcolm Dalglish ; Hammer Dulcimer
 このコレクションですっかりお馴染みになった感のあるハンマー・ダルシマーによる演奏で、4のメタモラでのアンサンブルに引き続き、今度はソロで、凍りついた冬の情景を表現しています。かつて知り合いにプレゼントしたこのアルバムの感想に「この楽器の音色が好き」と言われたことを思い出します。


13. Medieval Memory II / Ira Sein & Russel Walder
Ira Sein ; Piano / Russel Walder ; Oboe
 このアルバムには中世を偲ばせる曲が多く収録されていますが、この曲もそのうちの1曲。クリスマスが一般のお祭りのように広まったのが中世だからでしょうか?クリスマスの起源を探るような曲に、ウィンダム・ヒルの、この季節への思いが他のレコードと違っていることを認識させられるようです。前作からレーベル色の強いデュオによる澄んだ音色、タイトルに“II”とありますが、原曲は彼らのセカンドアルバムに収録されています。


14. Abide the Winter / William Ackerman
William Ackerman ; Guitar
 ウィルのギターのフィンガリングが、たっぷりと残響を生かして、心地よい響きとなって体に染み込んできます。それは襟を立てて北風をさえぎりながら下をうつむいている足下に、家の窓辺からこぼれる暖かい明かりが行く手にとっての道標となって足下を照らしてくれるかのような気持ちにさせてくれます。あたかもピンと張りつめた冷たい冬の空気に澄んだ音が響きわたるかのような。ふと見上げた暖かい明かりに、家族が待つ我が家をだぶらせて「ほっ」とする瞬間のようです。「冬」にイメージしがちの負の雰囲気を感じさせません。



15. By the Fireside / William Allaudin Mathieu
William Allaudin Mathieu ; Piano
 現代の印象派ピアニスト、マシューの心象風景。フェデリコ・モンポウのように、あるいは雪の結晶のように繊細な音の風景が聴き手を誘うように。夜もふけて暖炉の火も残り火になると、部屋の温度も急激に冷え込みます。チラチラと揺れる小さな炎が部屋の中にいくつもの幻影を映し出していく影の移ろい。断片的に現れる印象的なメロディが、聴き手をイマジネーションの世界へと誘ってくれるようです。彼の才能が開花したピアノ・ソロはウィルがプロデュースした『AVAILABLE LIGHT』(WH-1059)でも聴くことができます。オープニング曲と同様にピアノで今回のアルバムの幕は降ろされます。