たなばたの頃

 旭小学校の塚本先生からの依頼で、小学六年生を相手に“特別家庭学級”というのをやった。はじめのうちは僕のほうが緊張していたので、「なんとか子供たちに溶けこまなきゃなぁ」ということばかりが頭にあったが、スライドを映しながら星座の話を始めたら、そんな心配もどこかにいってしまった。というのも視聴覚室のスクリーンに映し出された星座のスライドを見た子供たちが「わぁ〜キレー」という反応を、暗がりの教室のあちこちで示してくれたからである。
 最近の子供たちは、テレビゲームとか僕が育った頃と違う環境の中で成長していくので、こんな星座の写真を見たぐらいでは大した反応もしないだろうと思っていたのに、これは大きな誤算だった。
 いくら自然が豊かな四街道といっても、僕らが子供の頃に遊んでいたような自然と親しむ場所が少なくなってきている。あったとしても整備されたような公園ばかり。僕らが子供の頃には“秘密のアジト”と呼ぶような場所が(秘密というわりには)あちこちにあり、怪我をしていろいろなことを学んだ。人にあれこれ言われるよりも、自分の失敗から多くのことを学んだ。今はそんな場所さえ見かけなくなり、見通しの良い公園ばかりが目立つ。
 そんな世の中だから、ただ話を聞いてくれるだけだと思っていたのに、目の前に映し出される星座のスライドは、たとえただの写真にすぎなかったが、彼らの心を魅了していたようだ。まだまだ子どもの心には好奇心に対する目が開いているんだろう。

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 予定では、何人かの子供たちにギリシア神話を読んでもらうつもりでいたのに、あっという間に時間が過ぎてしまい、それは実現しなかった。そのあと父兄の方に自然の中の星についての話を図書館に移って説明した。特に塚本先生からリクエストのあった南極老人のことである。

 昼食をとり終わると、もうとっくに帰っているはず女の子たちがどやどやとやって来た。視聴覚室では、50人ぐらいいたから、ほとんど質問とかを受ける時間も作れなかった(「子供たちもしずらかったのでは?」とは教頭先生)からか、みんな僕のまわりに集まってきては、あれこれ星座の名前を出してきた。
 フラムスチードやヘベリウスの古星図を見せると、今まで見たことのない星座の姿や神秘的な世界に触れた喜びと、驚きの表情を見せてくれ、僕の話す星座神話に熱心に耳を傾けてくれた。
 去りぎわに「今日の観察会には絶対行くよ」と約束してくれたとおり、19時からの観察会には20〜30人の子供たちとその父兄が集まった。望遠鏡で見る金星や火星に目を見張る人も多かったけど、とりわけ人気があったのは星座探しだろうか。午前中に話したことを憶えていてくれた子が「てんびん座はどこ?」とか「北斗七星って、あの三つの星のとこだよね」とか言って、ひっきりなしに聞いてくる。
 子供たちはこんな感じだったけど、親の方たちがもっぱら熱心だったのは、二日後に迫った七夕の主役の星たちのほうだった。家に帰って「七夕の星はどれ?」と聞かれたときに、ちゃん答えてあげたいからだろうか?それとも父親の威厳にかかわるからだろうか? 自分たちが子供の頃だった何十年も昔、父親に聞いても教えてもらえず悲しい思いをしたのだろうか?だから「自分の子供たちにはそんな思いをさせたくないから」というのなら「ガンバレお父さん!」と、エールのひとつでも送ってやりたいところだけど「どだっ。お父さんはなんでも知ってんだ!」と、即席で暗記してその場を繕うってんならどんどん恥をかくべきであろう。