本当に「ふっ」と思い立ち遠野へ行くことにした。
およそ10年ぶりになる遠野へと思いが馳せたのだ。更に今回は15日までに帰ってこられれば自由に時間が使えたので、電車ではなく自動車で、しかも高速道路も使わずに下の道(国道など)のみを走るつもりで計画を立てることにした。
なにも現代の、スピード時代にわざわざ時間をかけて行かなくたって、あっという間に日本列島を縦断できてしまうご時勢である。それをあえて時間がかかるようにしたのは、遠野が僕にとって特別な場所ということもあるし、遠野という場所がどれほど僕から離れて存在しているかということを確認したかったからに他ならない。だから僕が「遠野まで24時間かけて車で行って来たよ」と言うと、ほとんどの人が呆気にとられたような「よくやるわぁ」という表情を見せてくれた。しかし、誰に何といわれようと、心に深くしまってある風景を糸もたやすく引っぱり出すことはしたくないのである。つまり、移動時間がもったいないからといって、瞬間移動という手段はとりたくないのだ。そこに辿り着くまでの時間がすでに旅の始まりであって、その旅の半分以上の楽しみを含んでいると思う。 |