南部屋(なんぶや)に着いたのは、とっくに夜の7時を過ぎていて、宿泊客はみんな夕食中だった。「もうこないんじゃないかと思っていたんですよぉ」って澄んだ声を廊下に響かせながらあれこれ案内してくれていたが、僕はこのようにして宿の方に心配をかけるのが常だ。特に冬ともなると、夕方の5時を過ぎてしまうと周囲は真っ暗だから、実は僕の方も不安になってしまう。今日もバスの運ちゃんが「南部屋ならここが一番近いところだよ」といって降ろしてくれたのは良いけど、バスが去ったあとのそこは、真っ暗な山の中にひとり取り残されたような気がして、とっても恐かったんだから。
そんな僕を優しく包み込んでくれたこの宿の柔らかい雰囲気は、宿のスタッフ(といっても三人しかいなかったがー)が全員女性だったからか、すぐにリラックスすることができた。
朝は宿泊客がごっそりと引き上げたあとを見計らって、ノコノコと出て行くが、これもいつものことだ。宿の人とゆっくり話をしたいから、最後に出ていくことにして行くが、向こうも僕で最後だからか、たいていの場合ゆっくりと話し相手をしてくれる。
この時に僕の相手をしてくれた女将さんの穏やかな優しい口調の印象が鮮明だったので、今日の電話でも「青森の~」という声を聞いたとたんにすぐにわかったぐらいなんだから。
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