大井川鉄道のけたたましいエンジン音が、幼い頃に乗った電車の記憶を呼び起こしてくれた。周囲の景色もまた、それに似合った景観をしている。車窓も暑さをしのぐために全開で、エンジンの音が景色の中でその一部と化すようにとけ込んでいく様が、一層そんな思いをさせてくれた。
まだ金曜日という事もあって、学校帰りの学生に混じって、右に左に揺れる吊革を眺めていると、僕の地元の電車にでも乗っているような、僕がこの土地にとけ込んでしまったような気分だった。
一気にここの観光地のメッカでもある終点の千頭まで行っても良かったんだけど、「何もそんなに焦らずとも」と、千頭行きの列車を途中の家山で降りて宿をとった。
駅前も商店街も、ごくごく普通の町(というほど栄えていなかったが…)なのに、どうして宿が三軒もあるんだろうと尋ねてみたら、かつては川根路の宿場町として栄えた所だったという。僕たちが泊まった‘可愛楼’もそんな宿のひとつで、玄関先には創業時の頃の明治時代のモノクロ写真が、少しくたびれたような表情で、ホコリを払おうともせず掛かっていた。でも存在自体がここの歴史を物語るように大きく見えた。
それよりも、祭りでもないこの時期にやってくる観光客もいないと、逆に宿の主人に珍しがられてしまった。
大井川鉄道を終点の千頭で降りると、そこから先へはアプト式鉄道に乗り換え、奥大井のそのまた先の井川まで足を延ばすことができる。そこまで行くと井川湖に掛かる吊り橋や、山奥の秘境を味わうことができるわけだ。
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