いつまでも名残惜し気に海を見つめているその人と別れた後、近くの埋没林博物館を見学した。ここはかつて巨木が生えていたところで、港を建設する際に海底から巨木の根の部分が次々に現れ、この場所が今とは全く違う様相をしていたことを物語ってくれる生証人らしい。
博物館といっても、プールの中に苔むした木の根が沈んでいるに過ぎなかったけど(しかも現在は新しい建物を建築中だったらしく、僕が入ったのは仮設の建物だったから、あまり貴重な物という雰囲気が伝わってこなかった)、何十年も前にここに生えていた巨木が、水没した時のままの姿が残されているのである。それだけでも何か人間の歴史とは違う時間の流れを彷徨っていたような雰囲気が味わえるのではないだろうか。模型でないこの姿には、圧倒されるばかりだ。
ふたたび錆びた道路を市街地に向けて歩きながら、ガイドマップに載っている土産物屋を探した。どれもこれも似たような店構えで、もうどこでも一緒だろうと手当りしだいの店に入ると、案の定僕のような格好の人間は、暇を持て余している店員や工場の従業員たちのいい暇つぶしになったようだ。
「どこからきたんだね?」
「千葉からです」
「ほぉ〜う。そりゃずいぶん遠ぉ〜くから来てくれたね〜」
ほとんどこの繰り返しだったが、みんな仕事の手を休めて熱心に僕の相手をしてくれる。それは何も土産物屋の中に限ったわけではなく、町行く人々も、信号待ちをしている車の中の人々も僕に注目の視線を浴びせかけてきた。それぐらい、今回の僕はいかにも「旅行に来てマス」という格好をしていたようだ(自分では意識していないのに)。
ある土産物屋の町工場では、数十人の注目を一気に浴びてしまった。
「2〜3日前にくりゃあ、ずいぶんでかくてハッキリしたヤツが出てたのになぁ…。そのときは事務所の仕事をほったらかしにして、みんなで見に行ってきたぐらいなんだから」
と、残念がってくれた。事務所の主任らしき人が代表でそう言い出すと、みんな仕事の手を休め、僕を取り囲むようにして思い思いの印象を話し始めた。
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魚津では蜃気楼の収穫がないまま、明日からの行程に少しでも都合がよいようにと、僕にしてはめずらしく、富山の駅前にあるシティ・ホテルに宿を決めた。本当なら(予約が取れたら)、魚津のホタルイカ漁に参加すべく魚津近辺に泊まるつもりでいたのに。
明日の縦走に備えた部屋からは、窓に当たる大粒の雨の音だけが聞こえ、夜が深まるにつれその音も凄みを増していく。さっきまで静かな夜の街を映し出していた窓の景色も、今はゆらゆらと流れるようなネオンサインしか見せてくれない。どうやらこの部屋に置いてある小さなテレビから流れてくる天気予報通りに、低気圧の接近で大荒れに荒れ始めたようだ。
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