いつだったか、藤井旭氏の写真集の中にイギリス海岸から見た夜景の写真を見たことがあった。そこには「街灯 がまぶしくて…」、だったか「曇っていて…」だったかで、星の写真が撮れなかったようなことが書いてあったと記憶している。賢治記念館の図書室であがた森 魚さんが朗読している『よだかの星』を聞きながら、窓の外をぼんやり眺めていたらそのことをフト思い出した。
「イギリス海岸で星空を見たい」
大川内宿に行くつもりもなかったし、それを思えば時間はたっぷりあるしで、「星野写真は無理だけど宵の明星ならどうかしらん?」と思い、さっそく記念館を後にするとイギリス海岸と西の空がファインダーにうまく収まる場所探しだ。
市街地に入り込むと一方通行やら、駐車禁止やらでうまく車を止めることができず、賢治の墓参りを済ませた後夕食をとり、以前撮った場所へと車を移動させる。懐かしい場所ではあるが、そこからだと対岸は東の空になってしまった。
どうにかして反対側に回り込むと、ここからは花巻市街のネオンと宵の明星が収まりそうだ。川面にも空が映ってくれるのでイギリス海岸の雰囲気を収めるこ とができた。およそ銀河鉄道とはかけ離れてはいるものの、それでも何十年もの時を隔てて仰ぎ見る星空や夜景に賢治の思い描いた世界の中に入り込めたような 気がする。
対岸のネオンが川面に鮮やかな彩色をにじませ流れてゆく。 |