つる座
 今頃の星空で僕がいつも気にかけているのは、南天の空低く見えているはずの“つる座”である。この星座は日本では南天の星座として紹介されているので、全体が見えるわけではなく、地平線にずっとずっと低く、それこそ地面すれすれに上半身を現すふたつの星α星とβ星だけしか姿をあらわさない星座だ。

 もうだいぶ前のことになるけど、“みなみのひとつぼし”が昇る頃、このつる座のふたつの星が地平線に沿って仲良く輝く姿を見つけては、秋が深まってゆくのを感じたし、なによりも“遠い南天の空”に思いを馳せることで、この星座が作られた“遠い時代”へとつながっていくように思われた。ちょうどこの時期はススキの黒いシルエットがそよ風に揺れて見え、その向こうに見え隠れする鶴の姿を見ると、なんともいえぬ心地良さに浸れるのを、秋の夜長の楽しみにしていたのである。

 しかし、そんなつる座のふたつの星も、遠い昔に創られた如く、なんだか手の届かないところに行きかけているような気がしてならない。南極老人星と比べるとはるかに見やすい高さなのに、今ではつる座を見つけることの方が難しくなってしまったようだ。
 今日もこの星座を見つけるべく、地平線の開けたところまで来たのに、風にそよぐススキのシルエットだけがハッキリと見える以外、いつまで待っても鶴は飛び立ってくれなかった。


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