居間でテレビを見ている父に
「ちょっと覗いてみない?」と誘ってみたら、
くわえていたタバコをさっともみ消し
(まるで声をかけられるのを今か今かと心持ちしていたかのような機敏な動きで)
「なんだ、何が見えんだ?」と小走りに外に出てきた。
「望遠鏡のここから覗くんだよ」と言うぼくの説明を聞いてから身をかがめ、
「月か…これ月だろ?コレ」と聞くので、
「望遠鏡の先を見てみて」と返すと、
望遠鏡から目をはなし、
しばらくは「……」のまま固まっている。
やがて月じゃないということがわかったのか、あわてて望遠鏡を覗きなおして、
「なんだあの星?月と同じカッコしてるじゃん」と言って、
望遠鏡と空とを何度も交互に見比べている。
「子供の頃はガキ大将だったんだゾ」と誇らしげに語る父の昔話を、
いつも「またまたぁ」という目で聞いているだけで、
小柄ですばしっこい動作(最近は衰えを感じるがぁ)からは“ガキ大将”というよりも、
コワイもの知らず(これには一目置いている)のイタズラ好きの少年のようにしか
ソーゾーできないでいる。
そんな父の後ろ姿を見ていたら、
“父親”という近寄りがたい大きな存在よりも、
自分と同じ道を歩いてきた“少年の日”に触れたような気がして、
それ以上何も言えなかった。
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