星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)
星のふるさと

 昨年の夏、いつもなら星を見に行く場所へホタルを見に行った。ここは星野写真を良く撮りに来るところであり、銀河鉄道に乗るための天の川のレールがよく見える所としてたびたび訪れているお気に入りの場所だ。もう8月に入っていたのでホタルは遅いかなぁと思ってみたものの、呼べば何とか現れてくれるだろうと無謀で自分勝手な解釈のみで足を運んだ(いつものこと)。

 その時は車のハザードを付けて10分ぐらいで谷川の間のあちこちからホタルが僕の方を目指して飛んできてくれたのだが、そのあまりの数の多さに慌ててハザードを消したぐらいで、せっかく求めてきた仲間の点滅が突然姿を消してしまったからか、上空高く飛んでいた数匹が目標を失ったままそのまま通り過ぎて行った。「わざわざ遠いところから来てくれたのに、かわいそうなことしたなぁ」などと彼らを見上げると、遙か彼方にまたたく夏の大三角をはじめとする星々がホタルのように見え、ホタルもまた星のように見えた。彼らに星の光は見えているだろうか。また天上へはホタルの明かりが届いているだろうか…。

 僕はこの光景をカメラに収めようと思ったけど、この瞬間が素晴らしいのであり、用意して目を離している隙に見えなくなってしまうのももったいないと思ったから、そのままジッと星空を眺めながら脳裏に焼き付ける方を選んだ。目をつぶると今でもあのときの光景が見えてくるほど鮮明なので、あのときカメラに収めないで良かったなどと思ったほどだった。
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 今年もまたホタルと夕涼みの星空の季節がやってきた。しばらく見ない間に宵の明星の日没時の高度も低くなり、視界の狭い住宅地からはもう見えなくなってしまった。今日は梅雨明け間もない空だからなのか、それとも秋を感じさせる雲がスーッと青空に架かっているせいなのか、夕焼けが赤く染まることなく群青色のまま暮れていった。西空を真っ赤に染めてゆく空もいいが、僕は青空のまま暮れてゆく方が好きだ。いうまでもなく、夕焼け空の色は大気の汚れに左右される現象なので、特に汚れているときほど美しいオレンジ色に空全体が染まってしまう。そんな汚れた空の下で星空を眺めたって、微星の光が届かないことが初めからわかっていれば、赤く染まる光景があまりありがたいとは思えないのだ。

 梅雨も明け、これから本格的な夏が訪れるのか、昼間は30度近く、またテレビからは各地で30度を超えるところが後を絶たなかった。空気までもが焼けてしまいそうな夏の日は、やはり赤く染まる夕焼けよりも、青空がだんだん暗くなって群青色から夜の色に変わっていく方が、体中にこもっていた熱が静かに夜の中へ消えてゆくのがわかる「ほっ」とできるひとときだと思う。それにオレンジ色の火星や麦星の色は、青空と反対色なので、ことのほか美しく見える。

 目的地について、しばらくハザードを付けっぱなしにしておくと、遠くから1匹、また1匹とふわふわ近づく姿が目にとまった。草陰で静かに羽をこすり合わせパートナーに呼び掛ける虫たちは、川のせせらぎとリズムを合わせるかのように静かにメロディを奏でようとしている。時々それらの声に混じってカジカの鳴き声も聞こえてくるし、見上げれば満天の星が… などとうまくいけば言うことないのに、星空の方は表情がわかるぐらいの白い雲がつぎからつぎへと森の上にせり出してきたかと思うと流れてゆく。

 ホタルの方は去年と比べると集まる数が減っているように感じたが、それでも頭上に見えている星の数よりかはずっと多いようだった。しばらくは「あっちから来た来た」とか「ほらほらそこの下の方に…」などとホタルの出現に気を取られていたら、その間に星空のほうは雲の彼方に遠のいてしまったようだ。その時ぐっとホタルの数が増えたもんだから「相手にしてもらえない星たちが空から舞い降りたのかしらん?」などと一人ごちてみる。


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