星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

とりたち・2

★アオバズク

 最近は次の日が夜勤とかだと夜遅く、ほとんど明け方近くまで起きていることが多い(かといって宵っ張りの朝寝坊ではない)。そんなときはCDに耳を傾けながら本を読んで過ごしている事が多いのであるが、今日も例によってバロックなど聴きながらギリシア神話を読んでいた。

 そんな夜長を過ごしている以前から、ときどき近所で犬が「わんわん」というリズムで吠えまくっているのは聞こえていたのには気がついていた。最初のうちは犬が吠えていると疑わなかったのに、今日のはどうも様子が変だった。その声の長いこと…。やけに長く吠えているなぁと思ったところで、はたと本を伏せて窓の方へ近づき耳をそばだててみた。するとその声は犬の声ではなかったのである。すぐに思い立ったのはフクロウだった。もっと正確にはアオバズク。窓を開けてみると、その声が意外と近くから届いていることがわかった。少し上の方、まさかとは思ったが隣の家のアンテナの上にシルエットが見えている。間違いなくフクロウ類だ。声やシルエットの大きさから考えてアオバズクにまちがいない。こんなところで出会えるなんて!
 僕は興奮を抑えつつ手元にあった双眼鏡を彼の方に向けた。シルエットにしか見えないが間違いなくアオバズクだった。キョロキョロと動きがあわただしい。その目線は街灯の方に向いているのは明らかで、ガラリと窓を開けた僕の方には特に気にしていない様子だった。だから僕はもっと明るいレンズの、星専用の双眼鏡をセットしに掛かった。それと母親にもこのことを教えてやろうと思ったのだ。が、しかしである。時計に目をやるとすでに午前2時を回っている。普段からフクロウを見たいとは言っているものの、グッスリと寝ているところを起こしたら、ただでは済まされないような気がした。
 それはそうと飛び立ってしまう前に双眼鏡だ。「どこだっけなぁ…」と思い巡らせてみると、あの双眼鏡は現在母の寝ている部屋に置いてあったのである。ゴソゴソ用意している間に、物騒な物音に気づいてムクリと起き出すかもしれないと考え、この手(「あれーっ起こしちゃったかなぁー」とか何とかなんとか言ってごまかす)ならいけそうだと実行に移した。
 ガラリと扉を開けても微動だにせずグーと寝ている母が足下に横たわっている。母の足下でゴソゴソやり出すと何やら布団が反応し、自分の頭を両手でもってモミモミとマッサージを始めた。
 「何だ起きてんの?」と聞くとあいかわらず両手の動きをやめようとしない。モミモミ…。しばらく見ているとキチンとふとんの中に手を戻し、またグーと始まった。今のは一体何だったんだろうと思いつつも母を起こすのを諦め、アオバズクの鳴く声が聞こえていたので早々に引き上げた。
 さすがに天体専用の双眼鏡は視野が明るく、星空をバックにしたアオバズクが目で見るよりもよく見える。10メートルぐらい先にピントを合わせてしまっているもんだから、星とアオバズクの両者が見えることはなかったが、双眼鏡をどけて肉眼で眺めると彼の後方にはギリシア神話のゼウスが化けたという、わし座のアルタイルが瞬いていた。
 朝になって母に事の次第を話すと、頭を揉んだ記憶はないとだけ返事が戻ってきた。



★ジョージとキャサリン

 毎年この時期、梅雨の中休みに見せる青空を見ると家で飼っていたつがいのセキセイインコのことを思い出す。つがいとは言っても雄と雌だからというだけで同じ小屋に入れてしまったもんだから、先住人だったにもかかわらず気の弱い雄のジョージはあとから入ってきた雌のキャサリンにいつも突っつかれていた。ジョージの顔を見れば「なんでこうなるのぉ」という表情がありありと見えていたが、特に激しい喧嘩をすることも無さそうだったのでそのままにしておいた。するとキャサリンの方はジョージがおとなしいもんだから、我が物顔で小屋を占領し始めたのである。ジョージはますます肩身が狭くなって、いつも小屋の隅っこの方で小さくなっていた。
 ある時キャサリンは庭に入ってきたネコに羽をもがれてしまった。黄色い体が真っ赤に染まったその姿に僕は「ダメかな…」と、思わず肩を落としてしまったのだ。病院に連れて行っても、小さい体なので麻酔治療ができないと言われ、荒治療ながら飛び出した方の骨をハサミで根元から切り落とすしか打つ手はなかった。
 今まで小屋の中では大きな顔をしていたキャサリンも、ケガをしてしまったあとは小さく見えた。実際ジョージとは反対側の止まり木でじっと痛みをこらえているようだった。そして何よりもつらそうだったのは、片腕になったキャサリンは止まるバランスがうまくいかなくなり、片足で立つことができなくなってしまったのだ。つまり自分の足で頭を“かいかい”することができなくなってしまったのである。
 そんなキャサリンの痛々しい姿を見てジョージがおずおずとキャサリンに近づきだしたのは、キャサリンが病院から帰ってまもなくのことだった。今までいじめられていた腹いせを、ケガをしている最中にでも仕返しするのだろうかと見守っていると、なんとジョージはキャサリンの頭を自らのくちばしで“かいかい”しだしたのである。

「おおっ!ジョージ!そんなちっこい脳ミソでも思いやりっていうのがわかるのか!」

そんな風に思った。
 片腕になったキャサリンはそれから1 年近く、ジョージの愛に包まれてがんばった。そしてキャサリンが死んだあと、まもなくしてジョージも息を引き取ったのである。まるで生きる目標がなくなったかのように静かにひっそりと。仲良くなってからの歳月は決して長くはなかったけど、ふたりとも幸せだったことだろう。ジョージは今日の梅雨晴れのように真っ青な羽の色をしていた。






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