星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

 ドビュッシーの音楽を紹介するために、このページを思いついたと言っても過言ではありません。 彼が誘ってくれる夜の音楽には、さまざまなギリシア神話のエッセンスが込められていて、私がギリシア神話を読むときは、必ずと言っていいほどドビュッシーの音楽が傍らで鳴っています。私にとってのドビュッシーは、イコール・ギリシア神話に結びついているのかもしれません。それほど、彼の書く音世界に神秘的な深遠さを感じるからです。まるで彼がエジプトで発見された骨壺(カノープ)からインスピレーションを受けて作曲したように。
♪シリンクス(無伴奏フルートのための小品)
 ギリシア神話とフルート(もしくは笛)の相性は抜群。特に有名な話は、牧神パンが一方的な好意でシュリンクスを追いつめたとき、彼女は葦に姿を変えられました。どの葦になったかまではわからないパンは、適当に葦を1本折って笛を作る… 神話での葦笛シュリンクスは、現在のパンフルートの原型になっています。♪牧神の午後への前奏曲(オーケストラ)
 ドビュッシーを印象主義と言わしめるエポック・メイキングとなった作品(本人は良く思っていない)。友人であるマラルメの『牧神の午後』という詩に感銘を受けて1892年から1894年にかけて作曲したオーケストラ曲です。冒頭のフルートによる旋律は、牧神パンの奏でる葦笛を表現していますが、そのまどろんだようなフルートは、後にも先にもない、まさに神話の世界に迷い込んだような雰囲気を醸し出しています。♪ビリティスの歌(パントマイムと詩の朗読のための音楽)
 ドビュッシーの友人であるピエール・ルイスの創作神話。紀元前6世紀に生まれたギリシアの女流詩人ビリティスの書いた叙事詩という設定。それに友人であるドビュッシーが音楽をつけたもの。フルート2本、ハープ2台、チェレスタ(現在演奏されるチェレスタのパートはピエール・ブーレーズが作曲)によって演奏される神秘的な音楽です。生前に演奏されることはありませんでしたが、現在、いくつかのCDがリリースされています。お勧めはカトリーヌ・ドヌープが朗読しているディスク。このディスクには他にもギリシア神話を連想させる作品が数曲収録されています。
6つの古代の墓碑銘(ピアノ作品)
 上記『ビリティスの歌』から6曲を選んでピアノ連弾、もしくはピアノソロに編曲されたもの。冒頭の牧神のまどろんだような旋律が、聴き手をギリシア神話の世界へと誘ってくれるでしょう。

♪デルフィの舞姫(前奏曲集第1巻)、カノープ(前奏曲集第2巻)
 24曲からなる『前奏曲集』もまた、アルカイックな雰囲気を漂わせた曲が多く、上記以外の曲からもギリシア神話テイストが味わえます。デルフィとはアポロン神殿の信託所、カノープとは死者の骨を入れる骨壷のこと。

 

『見える笛、見えない笛』 このアルバムはヴィクトル・ユーゴーの
“ほら!目には見えないけれども…”という詩にインスピレーションを受け作曲した曲を集めています。そしてアルバムの中心は、全編に散りばめられるように配置されたドビュッシーの『6つの古代の墓碑銘』。
このアルバムにはサンサーンス、ゴダール、ピエルネ、ルーセル、カプレらの作品が収録され、ひとつのテーマを元に、ヴォーカル以外は、全てがピリオド楽器、という条件も手伝って絵画を見るような気分でギリシア神話の世界に思いを寄せることが出来るような雰囲気を持っています。

 

 特に私がギリシア神話を読む際にB.G.M.として良く流しているのはドビュッシーが晩年に作曲した『フルートとヴィオラ、ハープのためのソナタ(1915)』です。この曲に含まれている各楽器の音色の組み合わせや響き… 私がこの曲にはまったように、他の作曲家たちにインスピレーションを与え、同一の楽器の編成による作品が、ドビュッシー以後、たくさん作曲されるようになりました。

 
アーノルド・バックス(1883-1953) / 悲歌の三重奏曲(1916)
アンドレ・ジョリヴェ(1905-1974) / 小組曲 (1942)
ジャン=ミシェル・ダマーズ(1928-2013) / 三重奏曲 (1946年)
クラウス・フーバー(1924-) / 「サバト」
ハラルト・ゲンツマー(1909-2007) / 三重奏曲
ソフィア・グバイドゥーリナ(1931-) / 「喜びと悲しみの園」 (1988年)
武満徹(1930-1996) / 「そして、それが風であることを知った」 (1992年)
イェスパー・コック(1967-) / 「ドリームチャイルド」 (1996年)
ネイサン・カーリアー / 「サンブーカ・ソナタ」
アミ・マヤーニ(1936-) / 三重奏曲
大前哲(1943-) / 「タイム・トレーシング」
カイヤ・サーリアホ(1952-) / 「New Gates」

 

 以上はwikiに掲載されている同一楽器による楽曲一覧ですが、実際にレコーディングされている曲となると非常にまれで、聴く機会はほとんどないと言っても間違いではありません。なので、私の場合は、この楽器の組み合わせとよく似た、特にフルートとハープ、そして弦楽器が少々組み合わさった曲を探しては、ドビュッシーのそれと併せて聴いています。

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