星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

 人の声に興味を持つようになったきっかけは マーラーの交響曲第2番からでした。その曲がベートーヴェンの交響曲第9番からの影響下にあったということで、次に手を出したのは、「マーラーを理解するため」にも、自然な流れから交響曲第9番『合唱付き』に向かったのは当然の選曲でした。特にベートーヴェンは、しれば知るほどに、のめり込んでしまい人類の讃歌的なメロディのうちの一つだと思いま(まだ歌うほどにのめり込んでいませんが…)。
  ただ、星を見るときにはあまり大げさな曲は似合わないので、たとえばホルストの“海王星”に登場するようなシンプルな合唱や、少人数による編成で演奏されたCDなどを捜すようになりました。

 そしてCDというものが発売されて以来、これまで日本国内盤にしか目を向けていませんでしたが、1980年代後半あたりからレコード屋では輸入盤の扱いが多くなり、日本未発売、もしくはこれまで全く知られていなかった作曲家の素晴らしい音楽を手にできるようになりました。

 このページ(声楽)のカタログは、講座などで『天球の音楽』シリーズの資料集めをする過程で、知らなかった作品やCDなどの情報などで増えていく予定です。



 特にここで紹介しているのは日本だったら特定のジャンルの人々にしか販売効果がないだろう教会音楽(キリスト教の音楽)です。だからといって私が宗教にのめり込んでいるわけではありませんから安心して下さい(笑)。こういった楽曲がたまたまこのジャンルでしか受け入れられなかったのでしょう(ジャケットがみんな似たり寄ったりというのも一因していると思いますが…) 数年前、ポップス界で『グレゴリアン・チャント』が紹介されたときは今まで耳にしたことがない音楽に触れた人たちに大受けしたのでしょう。人を癒すのはやっぱり同じ「人」だということです。 “天界の音楽”が規則的に動いている天球の奏でるハーモニーだとしたら、人の声で聞こえてくる“天界の音楽”は天使の声と解釈されるのでしょうか?

グレゴリアン・チャント

サン・ピエール・ド・ソレーム修道院聖歌隊
指揮:ドン・ジョセフ・ガジャール神父、ドン・ジャン・クレール神父
1998年録音。
KING RECORDS KICC131



 グレゴリアン・チャントが流れてくる前にソレーム修道院の鐘の音が収録されていて(結構長い…)、あたかも教会で「彼らの声」を聞いているかのような錯覚になりそうです。ここに収録されているのは、今でこそ音楽という芸術の分野で聞かれるような「商品」として記録されたと思われますが、本来の役割は、神への誓いの言葉や、神からの言葉を聖職者たちが覚えるために抑揚をつけて行われたのが発祥とされているグレゴリアン・チャント。

 音楽史によれば「グレゴリウス聖歌」というのはニックネームで、カントゥス・ロマヌス、つまり「ローマ聖歌」という表現が正しいそうです。初期キリスト教において、ローマだけではなくヨーロッパ各地でそれぞれ別の聖歌が歌われていました。ただし、テキストはキリスト教関連。アンブロジオ聖歌、ガリア聖歌、 も皿べ聖歌などという古い典礼歌が、その名残りです。もちろん聖歌ばかりではなく、礼拝の形式の典礼にも、最初はさまざまな形態のものがありました。しかし、それで教会として、信者に対して都合が悪いと考えて、統一運動の号令をかけたのがグレゴリウス一世(540頃-604、在位590-604)だったのです。元々は聖者が経典を覚えるたびに抑揚をつけ始めたことがきっかけとなって、メロディが付随するようになったようです。当初は個人個人の覚えやすいテンポやリズムで「独り言」のようにつぶやき、教会という密閉された空間で一人一人が、神に祈りを捧げていたようですが、ステンドガラスが発明され、それが教会で使われるようになってから、教会も広がりのある聖堂が作られ、天井からはステンドガラスを通して陽の光が聖堂に降り注ぐ情景が、まるで神からの天啓と考える聖者も多かったのではないでしょうか。カール・セーガンの『コスモス』で、少年だったヨハネス・ケプラーが聖書を暗証している際、聖堂の中に降り注ぐ光を手のひらで遮理ながら、その光を浴びるシーンが描かれていましたが、まさにそのような情景が彼らを照らしてくれていたのではないでしょうか。

 調べてみれば、下で紹介する予定の、私が声楽に興味を持って手にしたパレストリーナよりも前の、グレゴリアンチャントが、ビルボードのレコードチャート(Billboard 200)で、ポップスのチャート上で3位となるチャート・アクションを見せ、一世を風靡していたことがあった模様。残念ながら、いっときビルボードのチャートを追っかけていなかった時期があって、まさにその最中のランクインでした。





Léoninus (1150-1201)
01. アレルヤ「わたしはあなた方をみなしごにしておかない」
(Alleluya: Non vos relinquam: Mass on Ascension Sunday)
02. アレルヤ「優しき(十字架の)木よ、優しき釘よ」
(Alleluya: Dulce lignum, dulces clavos: Mass on The Finding of the Holy Cross)
03. アレルヤ「聖霊は生の源の火よ」
(Alleluya: Spiritus Sanctus procedens: Matins on Sunday at Pentecost)
04. アレルヤ「精霊の救い主」
(Alleluya: Paraclitus Spiritus Sanctus (Vespers on Thursday at Pentecost))
05. 私があなたを形作る前に(Priusquam te formarem)
06. アレルヤ「女より生まれしもののうち」
(Alleluya: Inter natos mulierum (Second Vespers on the Nativity of St. John the Baptist))
07. 地上のすべての国々は
(Viderunt omnes fines terre (Mass on Christmas Day))
08. アレルヤ「聖なる日は我々の上に輝いた」
(Alleluya: Dies sanctificatus illuxit nobis (Matins on Christmas Day))
09. アレルヤ「われらが過越の子羊」
(Alleluya: Pascha nostrum immolatus est (from Mass and Vespers on Easter Day))

カペラ・アムステルダム
レッド・バード
1996年録音。
(輸)Hyperion CDH55328


 ジョヴァンニ・ピエルルイージ・ダ・パレストリーナ(Giovanni Pierluigi da Palestrina, 1525c-1594)は、のミサ曲を2曲収録しています(全曲伴奏なしのアカペラ)。寝るときに良く掛けていました。快い睡魔を誘ってくれるので最初の数曲のメロディを知っているぐらいで、後のはどういう曲が入っているのかわかりません(どこでミサが変わるのかわからないし、その程度です、私の宗教曲とのふれあいは)。しかしこういった曲が、私の考えているところの天界からの音楽かもしれません。
 こういう曲は何もキリスト教だけの音楽ではなく、万人のための芸術作品としてもっと聴かれていいし、なにより素晴らしい人間のハーモニーを聴かせてくれます。初めて聴く音楽だったので、しばらくはハマってしまいました。調べてみれば、パレストリーナよりも前の、グレゴリアンチャントが、ビルボードのレコードチャート(Billboard 200)で、ポップスのチャート上で3位となるアクションを見せ、一世を風靡していたことがあった模様。残念ながら、いっときビルボードのチャートをおっかけなかった時期があって、まさにその最中のランクインでした。

 今やなくなってしまいましたが、渋谷にオープンしたばかりのWAVEにて購入。店内のおすすめコーナーにあったのを見かけなかったら、この手の音楽との出会いはなかったのか、あったのか…





Pérotin (1180-1225)
01. 地上のすべての国々は(Viderunt omnes)

02. 来たり給え、創造主なる聖霊よ(Gregorian Chant: Veni Creator Spiritus)

Pérotin (1180-1225)
03. アレルヤ、われは援助を与え(Alleluia posui adiutorium)

04. おお、処女マリアよ(O maria virginei )

Pérotin (1180-1225)
05. いと高き御父の印(Dum sigillum)

06. イザヤの歌(Isaias cecinit)

Pérotin (1180-1225)
07. アレルヤ、処女マリアの誕生(Alleluia Nativitas)
08. 祝せられた胎よ(Beata viscera)
09. 支配者らは集まりて(Sederunt principes)

ヒリヤード・アンサンブルThe Hilliard Ensemble
指揮:デビッド・ヒル
1998年録音。
(輸)ECM RECORDS 837751


 個人名が残っている最初期の作曲家がペロティヌス(Perotinus, 1160-1230)の作品集で、なんとECMレーベルからリリースされました。ペロティヌス、またはペロタンとも呼ばれています。ノートルダム楽派のポリフォニー音楽の最も有名な担い手と音楽史の中では位置付けられていますが、ここにその全てが収録されているのは嬉しいところ。また、彼らのレコーディング合わせて撮影された『神が宿った汝の口づけ〜現代のペロタン』は資料価値が高い映像作品です。日本語字幕が嬉しい。
 さて、このアルバムにはペロタンことペロティヌスの作曲とされる6曲が収録され、間を挟むようにしてグレゴリアン・チャントが挿入されています。



復活のミサ
復活のミサ
(Victimæ paschali laudes)
Palm Sunday
The Plot Against Jesus
The Last Supper
Gethsemane
Pater, si non potest
The Betrayal
The Way of th Cross
Golgogha
The Burial of Jesus
The Empty Tomb

The Monks of Quarr Abbey
1998年録音。
(輸)HERALD HAVPCD 119


 「ヨハネス・ケプラーには作曲家や演奏家としての技量はなかったが、彼の周囲にはたえず音楽があり、多くの場面で個人的に音楽活動に関わってもいた」とあるように「たびたび聖歌隊や地元の貴族の家の音楽会に積極的に参加して」いたようです。そしてピュタゴラスの「天球の音楽」を求める際に、オルランド・ディ・ラッソ(Orlando di Lasso, 1532 - 1594)やこのアルバムに収録されているグレゴリアン・チャントの『復活のミサ』を、惑星の運動から得られる音階と比較するなどして、自らの研究を進めました。
--- 近代科学の形成と音楽(ピーター・ペジック)




♪教皇マルチェルスのミサ
♪ミサ・ブレヴィス

ウエストミンスター修道院合唱団
指揮:デビッド・ヒル
1998年録音。
(輸)HYPERION RECORDS CDA66266


 音楽史によれば、ジョヴァンニ・ピエルルイージ・ダ・パレストリーナ(Giovanni Pierluigi da Palestrina, 1525c-1594)は、1565年に行われたカトリック教義における『トレント会議』において、「典礼式用の音楽に必要とされる諸条件を見事に満たしている」と言われるように、信者でなくとも、言葉の意味がわからなくても、彼の心地よいハーモニーに癒されるのではないでしょうか? 今やなくなってしまいましたが、渋谷にオープンしたてのWAVEでピック・アップされていたことで目に止まったのですが、店側も歌の内容云々よりは、この耳に心地よいハーモニーを推しての販売だったと思います。

 このアルバムにはパレストリーナの代表作であるミサ曲を2曲収録しています。寝るときのB.G.M.として掛けていました。快い睡魔を誘ってくれるので、最初の数曲のメロディを知っているぐらい… 後のはどういう曲が入っているのかわかりません(どこでミサが変わるのかわからないし、その程度です、私の宗教曲とのふれあいは)。しかしこういった曲が、私の考えているところの天界からの音楽かもしれません。

 こういう曲は何もキリスト教だけの音楽ではなく、万人のための芸術作品としてもっと聴かれていいし、なにより素晴らしい人間のハーモニーを聴かせてくれます。初めて聴く音楽だったので、しばらくはハマってしまいました。調べてみれば、パレストリーナよりも前の、グレゴリアンチャントが、ビルボードのレコードチャート(Billboard 200)で、ポップスのチャート上で3位となるアクションを見せ、一世を風靡していたことがあった模様。残念ながら、いっときビルボードのチャートをおっかけなかった時期があって、まさにその最中のランクインでした。







サンティアゴの奇蹟
(MIRACLES OF SANT'IAGO)

01. 来たれ、キリストを信じる者すべて (Invitatory: Venite omnes cristicole) 
02. めでたし、祝祭の日(Processional: Salve festa dies) 
03. われらが声よ高まれ(Benedicamus trope: Vox nostra resonet)
04. 王中の王なる主を(Invitatory: Regem regum dominum)
05. われら一同、喜び讃えん(Benedicamus trope: Nostra phalanx plaudat leta)
06. 祝福されたるヤコブの御墓に(Antiphon: Ad sepulcrum beati Iacobi)
07. いと高き王の宝なる(Benedicamus trope: Ad superni regis decus)
08. 希望にして癒し手なるヤコブ(Brief responsory: Iacobe servorum) 
09. われら主を祝福せん(Benedicamus domino)
10. 今日の日、喜びもて讃歌を捧げん(Conductus: In hac die laudes)
11. 全能の御父なる神よ(Kyrie trope: Cunctipotens genitor)
12. 天上の合唱は詩篇を歌い(Hymn: Psallat chorus celestium)
13. この上もなき喜びもて(Prosa: Alleluia: Gratulemur et letemur)
14. イエズスは山に登り給いつつ(Offertory: Ascendens Ihesus in montem)
15. 慈悲ぶかく優しき神の小羊(Agnus dei trope: Qui pius ac mitis)
16. われら喜ばしく祭日を祝わん(Benedicamus trope: Gratulantes celebremus festum)
17. 聖ヤコブよ、ここに再び (Conductus: Iacobe sancte tuum)
18. おお、とこしえの救い主よ)(Responsory: O adiutor omnium seculorum)
19. 最後の御審きの日に(Prosa: Portum in ultimo) 
20. 教会に集う者らすべてを挙げて(Benedicamus trope: Congaudeant catholici)
21. 御身がしもべらの嘆く声に (Prosa: Clemens servulorum)

アニノマス4
1994年録音。
(輸)HARMONIA MUNDI CA 90025 CAL 9281.2


 パレストリーナの合唱曲を一通り聴いた後は(といってもほとんど記憶に残っていない曲ばかりなので、聴き込んだとはとうてい言えないのですが)、シンプルな編成(合唱→数人)の曲が聴きたくなり、レコード店で丁度宣伝していたのが、この女性4名からなるアニノマス4というグループのアルバムでした。アルバム・タイトルは『サンティアゴの奇跡』と付けられています。輸入盤を購入したので、当時は詳しいことがよくわからず、ほぼBGMとして聞いていたのですが、実は国内盤としてもリリースされていたようで、そこには

「中世の3大聖地といわれるエルサレム、ローマ、コンポステラのうち北西スペインにある小村コンポステラがこの曲の舞台。12世紀頃の作とされ、ひなびた情感とイスラムに支配されていたスペインのキリスト教徒たちが心のよりどころとしていたもの。アノニマスの透きとおった声が中世の夢を謳いあげています」という説明がありました(こういう時は図書館利用が便利)

 構成がシンプルゆえにポリフォニーも今となっては耳に入って来ますが輸入盤で購入したので詳しくはわかりませんが、15世紀頃に唄われていた曲ばかりをあつめています。女性の声は清らかでいいなと思え、パレストリーナ同様、心が非常に落ちつきます。睡眠時にお薦め。





09. 喜びのミサ(Missa 'Cum iubilo")
01. Kyrie
02. Gloria
03. Sanctus and Benedictus
04. Agnus Dei
05. 祝福あれ、天の女王(Edi beo thu, hevene quene)
06. アヴェ・マリア Op.93(Fauré: Ave Maria)
07. 聖母マリアの讃歌(Verdi: Laudi alla Vergine Maria)
08. 詩篇第13編「主よ、いかに永くわれを忘れたもうや」Op.27(Brahms: Psalm 13)
09. アヴェ・ヴェルム Op.65(Fauré: Ave verum)
09. 小ミサ(Fauré: Messe basse)
10. Kyrie
11. Sanctus
12. Benedictus
13. Agnus Dei
14. おお、主よ救いたまえ(Saint-Saëns: O salutaris hostia)
15. 高き天よりわれは来たれり(Praetorius: Vom Himmel hoch)
16. もろ人よ、手により喜べ(William Byrd: Rejoice, rejoice in Christ)
17. 罪なきみどり児の祝日のための晩祷(Michael Haydn: Salvete flores)
18. サルヴェ・レジナ Op.67-1(Saint-Saëns: Salve regina)
19. アヴェ・マリア (Holst: Ave Maria)
09. ミサ・ブレヴィス ニ長調 Op.63(Britten: Missa Brevis)
20. Kyrie
21. Gloria
22. Sanctus
23. Benedictus
24. Agnus Dei
25. おお、慰めたる聖霊の火よ(von Bingen: O ignis spiritus Paracliti)

ケンブリッジ・トリニティ・カレッジ女声合唱団
指揮:リチャード・マーロウ
1996年録音。
BMG BVCO-7313
(CONIFER CLASSICS 75605-51261-2)


 このアルバムは女声のみを集めたコンピレーションもの。クレジットに詳しいことが書かれていませんが、もしかしたら、このアルバムのためにレコーディングされたのかもしれません(色々なアルバムからの寄せ集めではない?)。
 このグループの歴史は古く1546年より活動している合唱団とのこと。さすがに女性の声は澄んだ響きを聴かせてくれ、まさにアルバムタイトルのように『天使の声』に聞こえます。  ここに収録されているのは13世紀に作曲されたという作者不詳のミサ曲、フォーレ、ヴェルディ、ブラームス、サン=サーンス、プレトリウス、バード、ハイドン、ホルスト、ブリテン、ビンゲンの作品が収められ、曲によっては伴奏のオルガンやソロなどが単調になりがちな流れに変化を与えてくれています。







01. ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:おお、信徒らのいと輝かしき群れよ
02. 作者不詳:新しき星の光が輝き
03. ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:おお、流血の惨事よ
04. 作者不詳:人間をあわれみたもう神は
05. ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:おお、神の光にて輝きたもう御身
06. 作者不詳:ばらのごとき花が
07. ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:おお、いと若々しき枝よ
08. ロバート・キア:モテトゥス「円環より」
09. ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:今や教会の母なる内が喜ばんことを
10. ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:おお、永遠の神よ
11. めでたし、海の星(13世紀のラス・ウエルガス写本より)
12. ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:おお、いと気高き若々しさ

タペストリー
1997年録音。
TELARC PHCT-5178 (CD-80456)

 このアルバムの国内盤には『天空の光』というタイトルがつけられています。アニノマス4に引き続き、こちらは米国の女性4名からなるグループです。僕がもっとも惹かれたのは、このころ興味を持っていたビンゲンの作品が収録されていたことです。また、彼女の書いたテキストを基に1952生まれのロバート・キアという作曲家が書いた曲も違和感無く挿入されています。  このページで紹介するアカペラ曲ではもっとも古い曲で、それだけで星空との仲介を果たしてくれているような気がしてなりません。特にビンゲンは幻視者というだけあって、中世の星空から何かの天啓を受けて作曲をしていたのかもしれません。



 宗教曲をどうやって解釈して向き合うかによっては、まったく手を出さないか、私のように無宗教である日本人らしさ(笑)をバンバンいかして聞いてしまうかのどちらかではないでしょうか。

「レクイエム」とか大好きなのは、宗教的という観点と言うよりも、私にとってはやはり音楽の芸術性を期待して聞いています。また、演奏側も、オペラをやり、神聖な神を讃える宗教曲をもやってしまうというのは、敬虔なる信者から見たら、どういう風に映るんでしょうか?「あんな下品な作品(どれとは言いませんが)を歌う歌手が、神を讃える曲を歌うんじゃないっ!」てなもんじゃないでしょうか?

 また、単に音楽好きであれば、特にキリスト教は、カトリックとプロテスタントという派閥争いもあり、その壁を越えて自由に聴くことが出来るのは嬉しいところです。

 私は読書中にBGMを掛けることが多いので、ガリレオの活躍した時代の本(天動説から地動説という、当時の人々の人生観を根底から覆してしまうことになる)を読みながら、バッハの宗教曲に手を出し始めました。というのも、出来ることなら「それに相応しい音楽を」というところから「じゃあバッハかな」という軽い気持で聞き始めたのです。すると、今まで知らなかったキリスト教が見えてきました。 たとえば、ガーディナーのモーツァルトミサ曲の解説書に次のような事が書いてありました。モーツァルトの宗教曲がオペラティックだという事を言う人達がいて、それに答えて

「18世紀は19世紀と違った世紀で、19世紀的な意味での宗教的な感情などというのがなく、すべて美しいものを神の前に捧げれば良かったのである。それを知って入れてば、このミサの中にソプラノと木管のカデンツァが出てきても驚かないはずだが、逆の意味で演奏はブリリアントで、オペラティックでなければならないのである」 

 この解説は目から鱗でした。K626にしても、ヴェルディのレクイエムにしても、どうしてあんなに激しく感情的なのだろうと常々思っていましたが、そうした作曲された当時の状況下がわかっていれば、オペラティックな曲であっても神への冒涜ではないと、逆に楽しめてきそうです。

 そんな事から考えても、クラシック音楽における宗教曲は、当時はそうした意味があったジャンルですが、今は一部の人たちの「祈り」ではなく、万人から「芸術」として受け入れられる娯楽作品として受け取るというのは間違いではないと思います。それから、当時は教会の中に女性は立ち入りを禁じていたために、現在聞かれるようにソプラノやメッゾソプラノといった女声による演奏は少なかったはずです。宗教曲は好きですが、C-T(カウンターテナー)が苦手な私は、どうしても美しい女声を求めてしまいます。この点を取っても私には宗教的素質は一切ありません(笑)

というわけで、このページでは宗教曲をごっちゃに紹介します(笑)







キャサリン・ボット
1995年録音。
L'OISEAU - LYRE POCL-1716

 邦題は『ワン・ヴォイス』。このアルバムは古楽声楽家のキャサリン・ボット(ソプラノ)が、文字通りたった一人伴奏なしで唄っている驚異のアルバムです。曲は11〜13世紀に書かれた歌曲集で、この手のアカペラは、どちらかと言えば宗教的な内容が多いのために、別の雰囲気が醸し出されそうですが、詩の内容は僕がここで取り上げている“天界の音楽”の分類でいくと、全く別の世界、つまり人間の愛や苦しみを歌った曲ばかりなので、安心して(笑)耳をかたむけることができます。





キャスリーン・シュローダー
1995年録音。
(輸)CHAMPEAX CSM0006

 ヒルデガルド・フォン・ビンゲン(1098-1179)は歴史上最も古い時代の女性作曲家でだったそうです。先のアルバムでは彼女を“幻視者”と紹介しましたが、この頃の人たちは、ピタゴラスやプトレマイオスの宇宙観で事象を考えを持っていた人たちですから、天変地異による世の中の事象はすべて天啓として受け止めていたに違いありません。アルバムの雰囲気もまさに、作曲家が感じていた当時の思想を反映しているような感じです。
 このアルバムは、キャサリン・ボットのアルバム同様基本はたった一人による歌唱ですが、時にはソプラノの二重唱になったり、ヴィオールなどの伴奏がついたりして、一辺倒になりそうな流れにアクセントをつけてくれています。


【モテット】

アントニオ・ヴィヴァルディ
(Antonio Vivaldi, 1678-1741)

Patrizia Ciofi; Soprano

モテット「子らを讃えなさい」 RV600
(Laudate Pueri Dominum)
モテット「正しい怒りの激しさに」 RV626
(In furore iustissimae irae)
モテット「怒り狂う海の中で」 RV627
(Trois motets célèbres)
モテット「ああ、天と地の平安の象徴であり」 RV631
(O qui coeli terraeque serenitas)

Fabio Biondi
Europa Galante


 宗教曲と言えばバッハを思い描く人が多い(私もその一人)のではないでしょうか? 『四季』をはじめとするヴァイオリン協奏曲が多いヴィヴァルディの声楽曲は珍しいなぁ(あくまで私のイメージの中での世界です)と思い、先ず最初に手を出したのがこのアルバム。その食指を伸ばさせたのは、やはり『四季』で一躍有名になったファビオ・ビオンディ/エウローパ・ガランディがバックを務めていたからに他なりません。



Sandrine Piau; Soprano

モテット「正しい怒りの激しさに」 RV626
(In furore iustissimae irae)
シンフォニア ロ短調 「聖なる墓にて」 RV169
詩篇「主の僕たちよ、主を讃えよ」 RV601
(Laudate pueri)
ヴァイオリンとオルガンのための協奏曲 ニ短調 RV541
ヴァイオリン協奏曲 ヘ長調 「聖ロレンツォの祝日のために」 RV286

Ottaio Dantone
Accademia Bizantina


 このアルバムも先のチョーフィと同じくヴィヴァルディのモテット集です。そのモテットは1曲だけで、器楽作品の割合が多く、ピオーの美声が堪能できるのはRV626(この曲だけチョーフィ&ビオンディ盤とと比較できます)とRV601のみ。ジャケットがドーンとピオーなのに、そりゃないよーという感じの一枚です。といっても声楽以外の器楽曲は、いかにもヴィヴァルディらしい雰囲気のバロック。こういう曲と一緒にカップリングされた中でモテットを聴くと、ますます宗教曲というイメージが薄らいでいきます(聴きやすくなる?)。ピオーのバックを務めるとは、ダントーネ率いるアカデミア・ビザンチーナ。


ジャン=フィリップ・ラモー
(Jean-Philippe Rameau, 1683- 1764)

Chœur & Orchestre Marguerite Louise

モテット「いかほど憧れを誘うことか、あなたの祭壇は」
(Quam dilecta tabernacula)
モテット「主は再び向き直り」
(In convertendo Dominus)
モテット「わたしは叫び疲れてしまいました」
(Laboravi clamans)
モテット「神は我らが隠れ家」
(Deus noster refugium)


Gaétan Jarry


 ラモーは鍵盤楽器(チェンバロ)の方が知られているので、このモテットと出会うまでは、オペラか鍵盤楽器ぐらいの情報しかありませんでした。先のヴィヴァルディはソロ・モテットでしたが、このラモー盤では6名のソロが入れ替わり立ち替わりのハーモにーを聴かせてくれるので、カラフルな感じがします。


ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
(Johann Sebastian Bach, 1685-1750)

Netherlands Chamber Choir

モテット「主に向かって新しき歌をうたえ」BWV225
(Singet dem Herrn ein neues Lied)
モテット「イエス、わが喜び」BWV227
(Jesu, meine Freude)
モテット「恐れることなかれ、われ汝とともにあり」BWV228
(Fürchte dich nicht)
モテット「聖霊はわれらの弱きを助けたもう」BWV226
(Der Geist hilft unser Schwachheit auf)
モテット「来たれ、イエスよ、来たれ」BWV229
(Komm, Jesu, komm! )
モテット「主をたたえよ、すべての異教徒よ」BWV230
(Lobet den Herrn alle Heiden)

Ton Koopman


 バッハのモテットはこのアルバムに収められた6曲のみ(BWV225-230)。様々な演奏体系があって、こちらも色々な表情を楽しむことができます。





【ミサ】

The Monteverdi Choir/English Baroque Soloists

ミサ曲 ハ短調K.427「グレイト」
(Mass in C Minor)

John Eliott Gardiner


 ガーディナーがイギリス・バロック管弦楽団を率いてレコーディングしたCDで、先の「緑の文」はこのCDの解説からの抜粋です。特にクレドの「聖霊によってマリアより生まれ」という曲が美しいです。ソプラノに、フルート、オーボエ、ファゴットが絡み合い、バロック的な室内楽を思わせます。お気に入りのアーティストが歌う異演を探ってみたくなります(笑)が、ここではシルヴィア・マクネアーが神に捧げられています。
 この曲は、モーツァルトの手によって完成されることなく、のちにアロイス・シュミットが復元させ、それをガーディナーが編曲したものです。



【レクイエム】

The Monteverdi Choir/English Baroque Soloists

レクイエム K.626
(Requiem)
キリエ K.341
(Kyrie)

John Eliott Gardiner


 モーツァルトの『レクイエム』は、音楽史上、歴史上、有名な曲だけに数多くのレコーディングが残されています。好きな演奏をよりすぐる楽しさもありますが、お気に入りが見つかると、それが基準となっていくところが、クラシック音楽の面白いところ。私のチョイスはソプラノのバーバラ・ボニーとアルトのフォン・オッターが共演しているところで私の評価は高い演奏です(笑)。 ガーディナーは古楽を中心としたレパートリーで有名ですが、モーツァルトでも名演、名録音を残してくれました。

 それにしてもモツ・レクの激しいこと。それまでは「死者のための」という表面だけを見ていましたが、先のコトバで目から鱗です。本当に。ガーディナーはピリオド楽器のオーケストラで二曲とも演奏してくれているので、両曲を一緒に聴いても演奏にムラがなく、明るい音色がバロック的で非常に楽しく聴いています。ボニー、オッター共に若々しい声が美しい。



【サルヴェ・レジーナ】

Cologne Musica Antiqua

♪シンフォニア ニ長調op.3-3
(Sinfonia, Op.3-3)

♪サルヴェ・レジーナ イ長調
(Salve Regina in A Major)
Bernarda Fink; Mezzosoprano

♪シンフォニア ヘ長調op.3-5
(Sinfonia, Op.3-5)

♪モテット「喜びにあふれた天使たちの合唱」
(Chori angelici laetantes)
Bernarda Fink; Mezzosoprano

♪フーガとグラーヴェ ト短調
(Fuga and Grave in G Minor)

♪サルヴェ・レジーナ変ホ長調
(Salve regina in E-Flat Major)
Barbara Bonny; Soprano/Bernarda Fink; Mezzosoprano

Reinhard Goebel


 バーバラ・ボニーの美声に誘われて探し求めた一枚。こちらの期待とは裏腹に、ボニーの声は僅かに3曲のみ。とはいえ、そのうち2曲がメッゾ・ソプラノのバーバラ・フィンクとのデュオで天国的な美しいハーモニーを聞かせてくれているので満足の一枚。

 オリジナル楽器によるラインハルト・ゲーベルのサポートも明るくつややかな音色で、バロック音楽の楽しさが十分に味わえます。シンフォニア(器楽のみ)と、声楽の組み合わせなので、飽きのこない選曲ではないでしょうか?




【カンタータ】

Cologne Musica Antiqua

ヨハン・クリストフ・バッハ
(Johann Christoph Bach, 1642-1703)
♪ああ、私の頭が水で満ちていたなら
(Ach, dass ich Wassers gnug hatte)

フランチェスコ・バルトロメオ・コンティ
(Francesco Bartolomeo Conti, 1682-1732)
♪私の魂は切望します

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
(Johann Sebastian Bach, 1685-1750)
♪満ち足れる安らい,うれしき魂の喜びよ BWV170
(Vergnügte Ruh, beliebte Seelenlust)
♪告白しましょう,そのみ名を BWV200
(Bekennen will ich seinen Namen)

カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ
(Carl Philipp Emanuel Bach, 1714-1788)
♪ゼルマ
(Selma)

ヨハン・クリストフ・フリードリヒ・バッハ
(Johann Christoph Friedrich Bach, 1732-1795)
♪アメリカの女
(Die Amerikanerin)

Reinhard Goebel


 最近お気に入りのメッゾ・ソプラノ、コジェナーのバッハ・ファミリー(J.S.バッハをはじめ、F.B.コンティ、J.C.F.バッハ、C.P.E.バッハ)によるモテット集も、バックを務めているのはゲーベル。





Natalie Dessay; Soprano

♪愛の狂乱 HWV99
(Delirio Amoroso)
♪アーチ,ガラテーア,ポリフェーモ HWV72
(From Aci. Galatea E Polifemo)
♪心が躍る HWV132b
(Mi Palpita Il Cor)

Emmanuelle Haïm/Le Concert d'Astrée


 右が声の主役ナタリー・デセイ、左が指揮者のエマニュエル・アイム。ジャケットに釣られてついつい手を出してしまいましたが、ヘンデルのカンタータを、ひところ「ヴォカリーズ」で話題になったデセイのソプラノが歌ってくれています。曲自体に華やかさはありませんが、こういう地味な曲をしっかりと歌い、レコーディングしてくれるというのは、日頃有名曲ばかりが溢れている耳にはかえって新鮮に聞こえてくるモノです。まぁ、ジャケットに釣られた輩がどうのこうの言うのは反則ですが、見つめられてゾクッとしますが、音楽的にはやっぱり地味。

 




【その他】

 上記のアルバム群から比較すると、こちらのアルバムは少々砕けた内容と言うのでしょうか?アルバムの邦題?には『トリプルハープの調べと共に、イタリア・バロックの「語り歌」を』と長々としたタイトルがつけられていますが、ハープを伴奏に二人のソプラノ歌手が17世紀に作曲された「宗教的寓話曲(アルバムの原題「FABELLAE SACRAE」)」を歌い上げています。
 これらの歌は聖書などの説話を寓話仕立てに作られた作品たち。カトリック教会ではプロテスタントに対抗すべく宗教改革の中で、芸術家たちの描き出す音楽や絵画に目を向け、それらが人々に与える影響力を引き入れることで自らの立場を守ろうとしていた時代だったとか。
 二人のソプラノ(これだけで私の食指は動く)とハープ。まるでギリシア神話の読み聞かせのように想像をかき立てられるアンサンブルです。途中、4曲のハープソロもありますが、美しいアンサンブルは聴き手へのイマジネーションを大いにかき立ててくれるようです。

 


〜参考書〜

中世音楽の精神史
(金澤正剛、河出文庫)

中世・ルネサンスの音楽
( 皆川達夫、講談社学術文庫)

キリスト教と音楽 ヨーロッパ音楽の源流をたずねて
(金澤正剛、日本基督教団出版局)

キリスト教音楽の歴史
( 辻荘一、日本基督教出版)

CD案内キリスト教音楽の歴史
( 川端純四郎、日本基督教団出版局)

中世キリスト教の典礼と音楽
( ジョン・ハーパー (著)、佐々木勉/那須輝彦(共訳) 、 教文館)


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