夜想曲(Notturno) / ルチアーノ・ベリオ

 

 イタリアの作曲家ルチアーノ・ベリオにより1993年に作曲された弦楽四重奏のための夜想曲です。いかにも現代音楽のイメージ通り、心地よい旋律もなければ、不協和音の連続が繰り広げられます。

 いつものごとく「夜想曲」という和訳は日本人の感性(琴線)にふれる名訳だと思うのですが、各国での読み方は以下の通り。
 
Nocturne:ノクターン(英語)
Nocturne:ノクチュルヌ(仏語)
Notturno:ノットゥルノ(伊語)
Nachtmusik:ナハトムジーク(独語)
- - -:ナクチウールン(露語)
 
 この弦楽四重奏曲はイタリア人のベリオの作品なので、当然表記は♪Notturnoです。和訳にすれば「夜想曲」なのですが、このアルバムクレジットのように、時にはカタカナ表記のままクレジットされることがあります。ベリオの作品も同じく。

 ただ、現代音楽は、フィールドやショパンの頃の夜想曲とは違うイメージが広がってくるから、タイトルから受けるイメージ通りに耳を傾けるととんでもない拒絶反応を起こす場合があります(私がそうだったように)。せっかくロマンティックな世界を想像してチョイスしてみたら、延々と続く無調の響き(この無機質な透明感も捨てがたいのですが…)。

 しかし、私にとって面白いと感じるのは、この無機質な調べが、宇宙論の進歩と共に首をもたげ始めたということ。それは、少なくとも地球が宇宙の中心にあって、地球の外には7つの天球がハーモニーを奏で、惑星の動きに人々が動かされていた時代から解放された瞬間と重なり合います。

 神の意思(御心?)に満ち溢れた世界の中に、ちっぽけな人間が生かされていたと考えられていた世界からの解放。その立役者が数学であり物理の世界となったのです。シンプルな数図を並べた公式を使うだけで予想がつき、地球のまわりは空っぽの空間がどこまでも続くという世界に、変化したのです。

 今までは、ヨーゼフ・シュトラウスが描くような有機的な地球を取り囲む宇宙が!

 ピタゴラスの時代は数学の教材に「音」が利用され、「天球の音楽」が産み落とされた世界。

 現在は「音」はリズム(律動)、メロディー(旋律)、ハーモニー(和声)が合わさって「音楽」として独立し、娯楽の対象となりました。こうした現代音楽の無機質な響きは、ピタゴラスの時代に利用された「音」だけの響きが、ゆっくりと目を覚ましたのかもしれません。
私たちの住む宇宙が、無機質な空間と思われ始めた20世紀初頭、シェーンベルグの提唱する12音階が徐々に受け入れられ、伝統的な西洋音楽(いわゆる日本人の考えるクラシック音楽)に殴りこんできた感があります。そして、それまでの有機的な宇宙だった時代には、あまり書かれることのなかったのに、以降は宇宙をテーマに選ばれた作品が数多く登場することになったのは、皮肉な結果ではないでしょうか?