ジェームズ・レヴァイン(1943〜)を知ったのは、マーラー・ブームが過熱した1980年初頭で、交響曲第5番のアルバム・ジャケットでした。実際に音を聴いたのはずいぶん後のことで、指揮者というよりもスコット・ジョプリンのピアノ作品、そしてプーランクの室内楽作品からだったと思います。それにしても彼のディスコグラフィを眺めてみると、同郷のアメリカのオーケストラのほか、ヨーローッパのウィーン・フィル、ベルリン・フィルとの共演が多く、私のライブラリーにも並んでいます。

 

 

  レヴァインも当時は(当たり前だ)若手〜中堅どころとして活躍していましたが、フィラデルフィア管弦楽団を指揮してのこのマーラー(上)は、悪く言えば「暑苦しい」そのジャケットのインパクトが強く、バーンスタインに続いて手を出した指揮者でした。また、彼は指揮者としてだけではなく、ピアノニストとしても腕が立ち、プーランクの室内楽やドーン・アップショウとのドビュッシー、クリスタ・ルードヴィッヒとの「冬の旅」などのレコードも数多く愛聴しております。




 レヴァインほど、世界中のオケと、まんべんなくレコーディングを行っている指揮者も多くはいないでしょう。なので、彼の棒捌きにオーケストラがどのようにこたえているのかを聴く楽しみがあります。レコード会社に気に入られた、恵まれた独りではないでしょうか。まずはシカゴ交響楽団から。

 私の持っているカタログを見ると、シカゴ響とのレコーディングは比較的オーディオ・ファイル的な楽曲が多いかもしれません。だったらサン・サーンスの「交響曲第3番」とかベルリオーズなんかも・・・と思ったりして。

ホルスト:組曲「惑星」
 なんと言っても私の最初のお勧め作品は、ホルストの「惑星」です。シカゴ交響楽団によるこの曲は、当時の音楽監督だったショルティさえレコーディングしておらず、グラモフォンがレヴァインにシカゴとの録音を委ねたのは、アメリカ人指揮者だったからなのかもしれません。

 それにしても金管の咆哮と言ったら、同郷のバーンスタインを遥かにしのぐもので、バリバリと金管を鳴らし、これでもかと音の洪水、トランペットが大活躍。ここまで馴らしてくれたら「快感」でしょう。とにかく容赦なくたたみかける演奏には脱帽。日曜の昼間にヴォリュームをいっぱいにして音に溺れましょう(笑)。オーディオファイル向きの一枚。私のはアートン仕様。 

ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」ほか
 ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」は大好きな曲で、それをレヴァインが弾き振りしてくれています。これもシカゴ響のレパートリーとしては珍しいのではないでしょうか?レヴァインの明るく、いかにもジャズっぽいタッチや音色が楽しめます。シカゴ響も好演!
プロコフィエフ「交響曲第1番」ほか
 芸が多彩なレヴァイン。私にとって、この曲はショルティ/シカゴを愛聴盤としてしますが、レヴァインも同じくシカゴ響を振って「ハイドン的」な古典をオケの音色を活かして表現してくれています。カップリングの交響曲第5番は、冨田勲が『バミューダ・トライアングル』で取り上げてくれていたので、私にとってとっつきにくい現代音楽的な感触も耐えられました(笑)。とにもかくにもレヴァインの棒さばきがいい。
オルフ「カルミナ・ブラーナ」


 どんな楽団でも振ってしまうレヴァインは、アメリカのみならず欧州でもそれは変わらず。ベルリンフィル、ウィーンフィルを振り分けて名盤を量産しています。ここではベルリンフィルを振ったアルバムを紹介します。

ベルリオーズ「幻想交響曲」ほか
ベルリオーズ「レクイエム」ほか
 ソリストにルチアーノ・パヴァロッティを起用し、声楽陣も充実の大レクイエム。ベルリンフィルもここまでやるか!といった迫力で、死者も生き返る?ヴェルディよりも巨大化したレクイエム。
ベルリオーズ「ロメオとジュリエット」
 ソリストにアンネ・ゾフィー・フォン・オッターを起用し、レクイエムに続いて声楽陣が充実した劇的交響曲。
サン=サーンス「交響曲第3番」ほか
マーラー「大地の歌」
 なんとソプラノにジェシー・ノーマン。残念なのはこれがライヴ・レコーディングと言うこと。それをまったく感じさせないレコーディングではありますが、どうも立体感がない音は重ね重ね残念です。ジェシーにとってはコリン・デイビスとロンドン響以来の「大地」

シベリウス「交響曲第2番」ほか
 最初にこの曲を聴いたとき、チャイコフスキーの影響があるのかと思いました。8曲あるシベリウスの交響曲の中ではもっとも哀愁ある曲です。それをアメリカ人のレヴァインがドイツのベルリンフィルを振って、どう北欧ものを料理するのかが最大の聴きどころ。

シベリウス「交響曲第5番」ほか


 ウィーンフィルと唯一、モーツァルトの交響曲全集をレコーディングしたレヴァイン。ウィーンフィルとはモーツァルト物が多いですが、中にはスメタナの交響詩など意外な選曲もあったりして、そういう組み合わせも楽しみの一つです



モーツァルト「交響曲全集」



 私にとってもモーツァルト初体験は「ジュピター」

 
 レヴァインはウィーン・フィルと共に41曲もある交響曲の全曲レコーディングを行いました。これは1991年にモーツァルトが没後200年を迎えるというイベントに向けて、ドイツ・グラモフォンが企画したもの。そしてウィーンフィルによる唯一の全集です(2012年現在)。ベートーヴェンの交響曲全集は、古くはイッセルシュテット(1969)、レナード・バーンスタイン(1977〜)、クラウディオ・アバド、サイモン・ラトル、クリスティアン・ティレーマンとレコーディングしていますが、モーツァルトはレヴァインとの一種だけです。曲の数がベートーヴェンと比べると5倍近くもあるので、プロモーターとしても難しいのでしょう。今後、ウィーン・フィルによるモーツァルト交響曲全集は録音されるのでしょうか?なかったとしても、このレヴァイン・ウィーン・フィルによるセットは、マスター・ピースとして聞きつがれる存在だと思います。

 「レヴァインはもう呼びません」

と、最近、ウィーン・フィルの団員が語ったそうで、確かにウィーン・フィルとの演奏は皆無に近い状態ですが、当時は「交響曲全集」をレコーディングするのにレヴァインをオーケストラが指名したというぐらい両者の関係は良かったようです(いったい何があったんでしょうか?)

 レヴァイン/ウィーン・フィルによるシリーズも、当初はバラバラに揃えていました(当然図書館)。21番から41番まではなんとかそろったものの、それ以前の録音は見当たらなくなってしまいました。そこへ現れたのが14枚組の(これも図書館)「交響曲全集」です。ジャケットの楽しみはなくなりましたが、1番からすべてが収められていました。特に初期の作品ほどオーケストラの編成が小さいのが目立ち、通奏低音のチェンバロなどが、当時をしのぶ面白い演奏を楽しむことができます。
 

 

  ソリストにイツァーク・パールマンを迎えて、交響曲全集と共にウィーン・フィルとレコーディングしています。録音時期は1982年から1985年にかけて。こちらも1枚ずつリリースされていったので、都合3枚ですが、セットものとして2枚組にまとめられました。レヴァインの指揮棒にウィーンフィルが応え、パールマンが独奏という、当時望みうる最高の組み合わせによる全曲集でした。ウィーンフィルの弦のつややかさと、パールマンの独奏が絡んでふくよかな音色を楽しむことができます。




 ピアニストとしてのジェームズ・レヴァインは、スコット・ジョプリンの「ラグ・タイム」で慣れ親しんできました。



 
 ドビュッシーが好んだソプラノ(女声)の中での、このドーン・アップショウの声は大人のソプラノとは思えないほど高く澄み切った音色です。このアルバムにはドビュッシーの初期の(通常は取り上げられることはない)「ヴェニエ歌曲集」をまとめて聴くことができるという、ドビュッシーファンは外せない選曲があります。
 

 

「冬の旅」/クリスタ・ルードヴィッヒ
 
なんと「冬の旅」女声版です。歌うのはクリスタ・ルードヴィッヒ。




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