星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)




 エリアフ・インバル(1936~)を知ったのは、マーラーの集中的なレコーディングからでした。しかもデンオンの「ワンポイントマイクによる」という謳い文句が強烈な印象を与えてくれたのです。以降「エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団」という名コンビが生み出す名盤が次々と登場してきたので、注目しないわけには生きません(笑)。 とくにブルックナーの第1稿によるこだわりをみせてくれた事が記憶に残っています。(コロンビアのページ

 

 

 音楽とは裏腹に(レコード時代は音楽とジャケットは切っても切り離せない関係!と、思う…)、インバルのシリーズはジャケットがつまらなかった。シリーズだから、というのは仕方ないとは思うけど、ずっと同じ体裁なので。ただし、ブルックナーを除く。


 







フランクフルト放送交響楽団
指揮:エリアフ・インバル

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Disk1:幻想交響曲Op.14(1987)
Disk2:交響曲「イタリアのハロルド Op.16」(1988)
Disk3-4:劇的物語「ファウストの劫罰」(1989)
Disk5-6:劇的交響曲「ロメオとジュリエット Op.17」(1988)
Disk7-8:宗教的三部作「キリストの幼時 Op.25」(1989)
Disk9:テ・デウム Op.22(1988)
Disk10-11: レクイエム Op.5(1988)



 ブリリアント・クラッシクスからまとめられた11枚組のお得セット! あらためてレコーディング期間を見ると、わずか3年の間に集中的にセッションが組まれ、その体力には驚かされるばかりです。このレーベルからのボックスのお値段だけ見ると、単品の金額を出してもお釣りが戻ってくる感じで、しみじみ価格破壊というかなんというか、待っていた方が賢明だった・・・ などと思ってしまいます。 ブリリアントはいい仕事してくれます(笑)が、単売していた「幻想」にカップリングで収録されていた「レリオ」が外されて、中途半端な印象のあるボックスですが。「まあ、レリオなら・・・」てなところでしょうか?まぁ、付加価値としても対訳や、アーティストポートレイトなどかなぁ。 なお、レコーディング元のコロンビアから2021年にインバル85歳を記念して企画された全集には「レリオ」も加えて12枚組でリリースされました。ジャケットは相変わらずつまらないもんですが…

 ボックスが単体で購入した時よりも安くなっているので、手を出してみても、ベルリオーズの作品としては『幻想交響曲』以外を聞かないリスナーも多いかもしれません(私もそうだったりします)。
 幻想についで、比較的聞く機会のある『イタリアのハロルド』で重要な役割を果たしているヴィオラ。そのヴィオラにはユーリ・バシュメットがソリストとして参加しています。

 

 

 





幻想交響曲
 マーラーの時と同じワンポイントによるレコーディング。超有名曲だけに、所有ディスクもたくさんあるにもかかわらず、インバルのこの演奏を聴く度に、何故か初めて耳にするような旋律を味わう事があります。第3楽章以降の表情付けが独特で、グロテスクさが強調されています。この曲の聞かせどころでもある第4楽章は、それまでの楽章を演奏してきた同じ置けとは思えないほど荒々しく唸っています。特に弦のザクザクした感触がいいかも。そして第5楽章。鐘の音は甲高い音で好みじゃない(笑)。「怒りの日」のテーマも、息も絶え絶えという感じが漂っていますが、重々しさは感じられず。また、「怒りの日」ともう一つのテーマのせめぎ合いは、「怒りの日」に軍配が。ここの部分、ちょっと弦が弱いのか?
 カップリングの「レリオ」は、「幻想」の解説書などから、その存在は知っていましたが、リリック・モノドラマという説明通り、語りの合間に音楽が演奏されています。フランス語さっぱり分からないので… だったらちゃんと対訳してくれている歌詞を読みながら聴け、という話なんでしょうが、やはりクラシック作品の劇的な作品には視覚的な情報も欲しいところ。

 この「レリオ」は、 ピアノやハープの伴奏による歌や、「幻想」のフレーズが飛び出したりして、なかなか面白い作品。作曲者は「幻想の後に演奏される事を想定して作曲したようですが、ちょっとダレちゃうかも。だからメインの「幻想」に比べると、圧倒的にレコードが少ないのでしょう。しかし、ここにはベルリオーズが残してくれたリート分野の一面を伺わせる所もあるので、たまに聞くにはいいかもしれません。

DENON原盤ORTマスタリングSACDシリーズ第10回】として、2024年1月にタワーレコードよりSACD化されることが告知されました。他に『レクイエム』もカタログに加えられています。

・幻想交響曲(TWSA1162/4)
・レクイエム(TWSA1164)





フランクフルト放送交響楽団
指揮:エリアフ・インバル

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Disk1:交響曲 第1番 ニ長調(1985)
Disk2-3:交響曲 第2番 ハ短調(1985)
Disk4-5:交響曲 第3番 ニ短調(1985)
Disk6:交響曲 第4番 ハ長調(1985)
Disk7:交響曲 第5番 嬰ハ短調(1986)
Disk8-9:交響曲 第6番 イ短調(1986)
Disk10:交響曲 第7番 ホ短調(1986)
Disk11:交響曲 第8番 変ホ長調(1986)
Disk12-13:交響曲 第9番 ニ長調/交響曲 第10番 嬰ヘ長調(1986)
Disk14:交響曲「大地の歌」(1988)
Disk15:交響曲 第10番 クック復元版(1992)



 インバルの名を一番深く刻み込んでくれたのが、このマーラー全集(1985-1992)だったかもしれません。ここには第1番~第10番、大地の歌が収録されています。
 先にも書きましたが、インバルの名を知ったのはブルックナーシリーズで、師弟関係にあるブルックナーとマーラーを立て続けにセッションして完成させたインバルの活躍は衝撃的ですらありました。ただし、マーラー、ベルリオーズはデンオンとのセッション。ブルックナーはテルデックでのレコーディングだったので、音質(音の作り方)が異なります。

 インバルは東京都交響楽団の音楽監督を務める傍ら、彼らとライヴレコーディングによるインバルにとって二度目の全集を完成させました(しかもSACDで!) 。チェコ・フィルとのSACDシリーズは、三度目の全集となるのでしょうか?

 

 

 





交響曲第6番

フランクフルト放送交響楽団
指揮:エリアフ・インバル

 実はインバルのマーラー初体験はこの『交響曲第6番』でしたが、これほど濃い演奏だとは思ってもみませんでした。それは「ワンポイントマイク」という言葉にだまされていたのかもしれません。「マイク1本のマーラーなんて迫力に欠けるんじゃないか?」とか「ステレオ感の無い・・・」なんて、勝手に邪推してしまって聴かず嫌いとなっていました。それがどうでしょう!この迫力、この立体感。2010年のパーヴォ・ヤルヴィが振った交響曲第2番を聴いた事がきっかけで、インバル(フランクフルト放送に)手が伸びた、というわけです。
 ただし、インデックスに「ハンマーの音に注意」と但し書きがありましたが、思ったほどの衝撃はなく、並の打撃だったのには拍子抜けでした。

インバルのハンマー
12'49''/17'11''(第4楽章;30'02'')




大地の歌

ペーター・シュライアー(テノール) & ヤルド・ヴァン・ネス(メゾ・ソプラノ)

フランクフルト放送交響楽団
指揮:エリアフ・インバル


 テノールにペーター・シュラーヤー(大地の歌初登場!)を得て、新鮮な演奏を聴かせてくれました。アルトも当時は新人だったヤルド・ヴァン・ネス。






・子供の不思議な角笛(13曲)
ベルント・ヴァイクル(バリトン) & ヨルマ・ヒンニネン(ソプラノ)

・さすらう若人の歌(4曲)
イリス・フェルミニヨン(ソプラノ)

ウィーン交響楽団
指揮:エリアフ・インバル


 今まで手兵のフランクフルト放送交響楽団でしたが、ジャケットのシリーズも変わるとともに(笑)、ここに来てウィーン交響楽団とのセッションになりました。ショスタコーヴィッチ・セッションと同じ組み合わせです。出来る事ならマーラーは全曲フランクフルトでレコーディングして欲しかった。




歌曲集(1992)



ドリス・ゾッフェル(メゾ・ソプラノ)

ウィーン交響楽団
指揮:エリアフ・インバル

・亡き子を偲ぶ歌
・リュッケルトの詩による5つの歌曲
・さすらう若人の歌


 歌曲集「子供の不思議な名角笛」と同じくオーケストラがウィーン交響楽団。メゾ・ソプラノは交響曲第2番でもソリストとして共演しているドリス・ゾッフェル。インバルはよほど「さすらう若人の歌 」が好きなんでしょうか? イリス・フェルミニヨン(ソプラノ)のあとで、今度はメゾのドリス・ゾッフェルでs。





フランクフルト放送交響楽団
指揮:エリアフ・インバル

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Disk1:交響曲 へ短調
Disk2:交響曲 第0番 ニ短調
Disk3:交響曲 第1番 ハ短調
Disk4:交響曲 第2番 ハ短調
Disk5:交響曲 第3番 ニ短調
Disk6:交響曲 第4番 変ホ長調
Disk7-8:交響曲 第5番 変ロ長調/交響曲 第9番 ニ短調
Disk9:交響曲 第6番 イ長調
Disk10:交響曲 第7番 ホ長調
Disk11:交響曲 第8番 ハ短調
Disk12:交響曲 第9番 ニ短調


 インバルの名を強烈に印象づけられたのは、それまで「ノヴァーク版」とか「ハース版」ぐらいしか知らなかったブルックナーの交響曲を、すべて初稿譜を用いてレコーディングしている、というカタログの文句が目に止まってからです。あれから20年・・・ 価格破壊もここまで来ると、なんか吹っ切れてしまいます(笑) 上記、ベルリオーズ、マーラーと比べると、ここではセッション側の好みにより、ブルックナーの音はいささか物足りなさを感じてしまいます。とはいえ、今回再発されたボックスはリマスターにより、音の重心がだいぶ下がってどっしりとした、という声を聴くので聴いてみたいなぁと思うボックスです。

 

 

 


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