当日配布されたプログラムにカッサール氏のテキストが翻訳されていましたので、転載します。 それからカッサールのページで掲載しているアルバムジャケットへのサインは、第1部終了後に、お昼に出かけようとブラブラしながら信号待ちしているところへカッサール氏が1人で宿泊先のホテルへ戻る(そこでお昼だとおっしゃてた)ところへ出くわしました。彼も信号待ちしていて、一緒に聴きに来た知人に「ねぇ、もしかしたら…」と指差す方向に目をやるとポツンと信号待ちをするピアニスト。というわけで、路上サインとなった次第です。持ち合わせのアルバムすべてにしてもらったので計7枚!「ふ〜ぅ」とか言いながらもサラサラっと書いていただきました。 また、幸いなことに私の隣にカッサール氏のマネージャーが第4部から着席されました。最初は隣の席が空席で、もったいないなぁ、などと思っていたのですが、第4部の始まる直前に座ったガイジンさんが何やらカッサールに関する資料を見ていたので「ほら、サインもらっちゃった」と自慢げに見せたところ、「私は彼のマネージャーだ」というではありませんか!「どびゅっしぃ」ではなく「どびゅすぅいぃ」という発音の手ほどきを受けたり(笑)、一連のコンサートでの誌評を読ませてもらったり、日本公演のプログラムがペラペラのコピー一枚だったことに憤慨してみたり(もしかしたら入場料の金額を聞いたらもっとびっくりしたかも)と、なかなか貴重な体験をさせていただきました。
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【1日4回のリサイタル】
クロード・ドビュッシーのピアノのための80作品全体を、たった1日のうちに演奏するということは、むなしいパフォーマンスでも、マラソンでもなくて、どこにも寄港しない恐ろしく長い旅に似ている。この旅は、すぐれて良質で、常に意外性があり現代的な音色、雰囲気、そして風景にとりわけ富んだ世界の神髄へと誘い、その全ての領域に渡って、我々は一気に手に入れることになるだろう。というのは、このように膨大な作品が集められても、そのなかには、あまり重要でない作品とか、脆と称されるような作品は、ほとんどないからである。その音楽語法は、絶えず独創的で、微妙で、魅惑的で、気品があり音色は、めまぐるしく様々に変わるので、この全曲演奏を回を聴くにつれて、しかも思っているよりもはるかにずっと早く、種々の感情と感覚に襲われる。それは賞賛、純粋に感覚的な喜び、好奇心、夢に身をゆだねること、気晴らし、メランコリーが入り交じったものなのである。 このような仕事とそれが示唆するものを、4つの夕べにばらばらに分ければ、半日の冒険的な空間に及ぼす魔力と魅力を確実に損なうことになるだろうし、静止した時間あるいは、はかない時間の概念、複雑で多層的なリズムの概念、変化し奇妙な、瞑想的で、喜ばしげな音色と状況の概念について、ドビュッシーが実現した比類なき仕事を十分に捉えることができないだろう。この宇宙を少しでも捕まえるためには逆に、文字通りの意味の、切迫した感じ、少し劇的な技がなくてはならない。全曲演奏会は、4つのリサイタルからなり、最初の3つは休憩なしに行われ、それぞれがひとつのテーマと、ドビュッシーを容易に結びつけることができる一人の作曲家をめぐるものである。 最初のリサイタルは「ラモー礼讃」である。この、ドビュッシーが尊敬していた作曲家をとおしてみたものであり、19世紀末と今世紀初頭のフランス人の音楽家たちが忘れたことのない、バロックと古典派の巨匠を称えるものである。2番目のリサイタルは、ドビュッシーの練習曲の音楽が、あるものにとっては、いかに、突飛で、根源的で、いまだ近寄り難いものであるかどうか、示そうとしたものである。それはちょうど、ヴァーグナーの音楽が、当時そうだったのと同じだ。ヴァーグナーの場合には、不思議なことだが、ドビュッシー的な和声と音色の探求が、すでにはっきりと聴き取れるのである。 |
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【ドビュッシーの24の前奏曲】
「前奏曲集第1集」は、非常に短いあいだに、つまり1909年12月から1910年2月にかけて作曲された。ドビュッシーは、通常、作品を仕上げるのに時間がかかるのだが、幾つかの作品は、続けて、毎日1曲ずつ作曲した。「第2集」は、おそらく、より完成度が高く、常にあるレヴェルのインスピレーションと洗練を備えており、もっと時間がかかった(1910−1913)のだが、このときドビュッシーは平行して『遊戯』と『聖セバスティアンの殉教』に取り組んでいた。作曲家、そしてリッカルド・ヴィニエス(ドビュッシーの偉大な擁護者であり演奏家)、フランツ・ライビッヒ、ノラ・ドゥルウェット、ジャヌ・モルティエといったピアニストたちは『前奏曲』を数曲のグループに分けて、1910年5月から12月のあいだに初演したのであった。 |
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