発行;株式会社日本図書刊行会

発売;株式会社近代文藝社

印刷;信毎書籍印刷株式会社

製本;小泉製本所

ISBN 4-89039-209-2 C0095

発行;1997年3月6日

著者;皆川敏春

 当初自分のためだけの、たった一冊の本を作ろうと思って書き始めた日記が、こんな形になるなんて思ってもみませんでした。そもそも旅に出て撮り続けていた写真をアルバムに整理するときになって、「なんかコメントがほしいなぁ」という気持ちから発展して、日記を(つまり旅行記になった)つけるようになったのです。そしてカメラのファインダーを覗くたびに、コメントを考えるような癖がつくようにもなりました。 もともと文章を書くのは苦手で、学校の作文や読書感想文とかは大嫌いでした(通知票を見れば分かる。もっとも見せる気はないがー)。小さい頃は絵を描いている方が好きだったので、幼稚園の時など誰よりも早くお絵かき帳を二冊目、三冊目と描きつぶし、先生を驚かせたぐらいですから。
 そんなコメントが旅行記のような形になるようになって、初めて「まとめてみよう」と意気込んで欠いたのが『遠野物語』でした。8年まえに書いたものなので、『一番星のなる木』に収録した他の作品と比べると、自分で読んでも今のスタイルと違うのが分かります(だいいち長すぎる!今ならもっと短くまとめていたでしょう)。だからあえて分けてみました。
 その旅行も社会人になってから行くようになりました。つまり「お金はあるものの時間がない」というおきまりのパターンの中で生活するようになってしまったので、気晴らしから行くようになったのです。そんな生活の中を上手くかいくぐったおかげか、時間の使い方が上手くなったと思います。ある時などひと月に一度は出かけたぐらいですから。だから本当なら今頃は日本中を制覇していたのではないでしょうか。何度も何度も同じところに行かなければ…。というのも僕には一回でその土地の良さを判断(満足)できないし、気に入って何度も足を運ぶことで、自分の中に、つまり体の一部に取り入れられれば、その風景が思い出として残るのではなく、自分自身の生活の中で生き続けてくれるだろうと思うからです。それに春夏秋冬それぞれ違うだろうし、天候によっても表情は違ってくるでしょう。だから僕は旅先が雨だったとしても満足することにしています。晴天の下の景色だけがその時の風景ではないし、普段見ることのできない違った一面が見られたと思えば、旅の楽しさが損なわれることなく続けられると思うからです。もっとも僕自身が“雨男”の異名をもっているので、半分はあきらめから来ているのですが。
 『メシエスケッチアルバム』というのは、ウチの庭から見上げた星日記です。スケッチという名の通り、オリジナルはそれぞれの天体の鉛筆によるスケッチがついているのですが、印刷では上手く表現されないと思ったので載せませんでした。そこに書かれているように、ここ四街道の夜空も年々明るく汚くなってきています。これを描き始めた頃はただ単に二台の望遠鏡(八センチ屈折式と十二センチ反射式)による比較のスケッチだったのですが、それが四街道の夜空がだんだん汚れていく様子の記録のようになってしまったのが残念でなりません。
 どれぐらいの人たちがそういったことに興味を、あるいは関心を持っているのか、冬の一時だけにしか姿を現さない南極老人を思う度に気になってしまいます。去年の百武彗星や、この春やって来るヘールボップ彗星を見上げて初めて気がつくのでしょうか。「あぁ、星が少なくなったな」と。 この本が出版される頃、夜空のヘールボップ彗星が出現していることでしょう。千載一遇に恵まれた、近年まれにみる巨大彗星が僕の本の出版を祝って出現してくれたんだろうと勝手に解釈しています。そしていいタイミング、いい時代、いい両親(父末太郎、母富子)と巡り会えたことに感謝したいと思います。 そしてシロートの、わがままな注文の編集を担当していただいた日本図書刊行会の山内久美さん、装幀を担当していただいた近代文藝社の名取千鶴子さんには特別な感謝を。(1997年2月)

千葉日報より
この表紙にはエッセイとなる話が描かれています(ジャケットをクリックするとジャンプします)
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