星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

 まだ星を眺めるようになってから間もない小学6年生の頃、石田五郎先生の『天文台日記』に触発されて、深夜喫茶のまねごとで星のBGMを探していました。当時はホルストの『惑星』を兄から教えてもらい、他にも宇宙をテーマにした曲を探してみたものの、なかなか見つけることはできず、宇宙戦艦ヤマトの音楽集というLPを兄から借りて聴いたりして我慢していたものです。

 そんな中、ラジオ番組を眺めていて眼に留まったのがヨーゼフ・シュトラウス(1827-1870)の「天体の音楽」という曲名。そのものズバリ。しかし、曲を聴いても「どこが天体なんだ?」という印象しか無く、ホルストの金星や土星、海王星と言った神秘的な雰囲気(宇宙のイメージってそんなもの?)の曲を探していた私にとって、この曲は「つまらない」音楽として映ってしまったのです。

 しかし、当時はまだ宇宙のことをあまり知らなかったし(まぁ、今も…)、音楽の世界にもほとんど入ったばかりで、聴いている曲と言ったらホルストの「惑星」と、カップリングで収録されていた「グリーンスリーヴスによる幻想曲」ぐらい。そんなヤツに何がわかるのだ?と言ったところでした。

 今、この曲を聴くと、当時の人たちが思い描いていた宇宙観というものが目の前に浮かんでくるし、天球に踊りだしてくる星座のキャラクターたちの姿を思い描いてしまうほどです。

 ヨーゼフ・シュトラウス(1827-1870)がこの曲を書いた1868年、当時の宇宙観は、すでにコペルニクスの地動説が人々の中に受け入れられているとはいえ、やはり宇宙は今よりももっと身近で、星の運行が人々の運命を左右するだけの距離に宇宙はありました。日が東から昇り西に沈む。星々が北極星の周りを巡る。いくら天文学の世界が地動説を訴えた所で、やはり日常の生活で眼につくのは天球の巡りでした。

 作曲者のヨーゼフは「天体の運行を大きなハーモニーと考えて」曲想を練ったということですが、宇宙(星空)は作曲家にとって大いなるインスピレーションの源泉なのでしょうか。マーラーの8番目のシンフォニーを作曲した際に、同様のことをコメント(大宇宙が響き始める様子を想像してください。それは、もはや人間の声ではなく、運行する惑星であり、太陽です)していますが、2人の対象の捉え方には大きな違いがありました。

 ヨーゼフの曲は人々の目が見た星空の、星座たちの舞踏会であって、夢の劇場の世界。マーラーの音楽は、そうした庶民のあいだに信仰しているような民話とかおとぎ話とかの世界ではなく、物理や力学が働く天体の運行を司る「力」を扱ったような音絵巻になっています。そこに人間の合唱を施すと言う仕掛けは、まさに歌劇場指揮者マーラーならでは、圧巻としか言いようがありません。

 そうした文化や思想などを理解した上で、この曲に耳を傾けたとき、稲垣足穂の「一千一秒物語」の中に登場する世界が目の前に広がります。

 プラネタリウムの星空投影のごとく夜の帳が降りると同時に、星々の間から大きなゼンマイ仕掛けの天球がガタゴトと動き出し、ピカピカしたブリキ細工の星やつきたちが日周運動を始める。フルートの音色が徐々に暮れゆく空を奏で、ハープが星々のきらめきをなぞる。ストリングスの澄んだハーモニーが暗く透明な星空を招く。そしてギリシア神話では仲の悪いキャラクター同士が仲良く並んでワルツを踊り、悪者や嫌われ者たちでさえ、その輪の中に入って楽しそうに振る舞う。獰猛な野獣たちも女神の足下で子猫のように戯れつく。そんな賑やかで楽しい天界の舞踏会をヨーゼフは描いてくれたのです(とまぁ、こんな風に思うのは私の主観ですけど、こうやって聴くと楽しめます)。

 そして最後にもう一度、夜毎繰り返され、天界の舞踏をしめくくるためにオープニングで奏でられた幕開けのテーマを全奏で盛り上げてお開きとなります。

この曲の素晴らしいところは、天候がどうであれ、巡る天球のワルツを楽しめる、というところでしょうか?☆☆☆

 
 この曲を聴くなら、手っ取り早くは『ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート』というライヴ・アルバムがあります。ヘルベルト・フォン・カラヤンが1987年に登場して以来、スター指揮者が指揮台に立つようになり、以降、毎年、ニュー・イヤーのレコーディングが行われるようになりました。なお、ニューイヤーで演奏された年と指揮者は以下の通りです。
 
指揮者 音源(タイトル)
1943 クレメンス・クラウス(1893-1954)  
1948 クレメンス・クラウス  
1954 クレメンス・クラウス ニューイヤー・コンサート1954
1959 ウィリー・ボスコフスキー(1909-1991)  
1964 ウィリー・ボスコフスキー  
1968 ウィリー・ボスコフスキー  
1973 ウィリー・ボスコフスキー  
1978 ウィリー・ボスコフスキー  
1979 ウィリー・ボスコフスキー ニューイヤー・コンサート1979
1980 ロリン・マゼール(1930-2014) ニューイヤー・コンサート1980
1987 ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989) ニューイヤー・コンサート1987
1992 カルロス・クライバー(1930-2004) ニューイヤー・コンサート1992
2004 リッカルド・ムーティ(1941-) ニューイヤー・コンサート2004
2009 ダニエル・バレンボイム(1942-) ニューイヤー・コンサート2009
2013 フランツ・ウェルザー=メスト(1960-) ニューイヤー・コンサート2013
2016 マリス・ヤンソンス(1943-2019) ニューイヤー・コンサート2016
2019 クリスティアン・ティレーマン(1959-) ニューイヤー・コンサート2019
2022 ダニエル・バレンボイム(1942-) ニューイヤー・コンサート2022
 

 

 

 
クレメンス・クラウス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1954)
 クレメンス・クラウスは「ウィーン・フィルのニューイヤー」を開始した人物で、もっとも古いライヴの演奏(1954年)が全曲盤として2021年にリリースされました(左)。それとは別に『シュトラウス・ファミリー・ワルツとポルカ 第2集』というアルバムでもセッション録音をしています。ともにウィーンフィル。

  セッションの方は詳細な時期がわかりませんが、ジャケットには1951~1953年録音とクレジットされています。なので、モノラル録音。星空の無限の広がりを感じるような音響ではありませんが、星の光を過去の姿として眺めれば、過去の音もこうして聴くことは、私にとっては星空の彼方から届く音楽(天界の音楽)として楽しむことができるのです(特にモノラルのレコード屋、プチプチノイズが入ってくると、なおさらの臨場感が…)。

 

 

 
ウィリー・ボスコフスキー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1979)
 ボスコフスキーの「♪天体の音楽」は3種類あります。すべてワルツ大全で聴くことができます。

Disk1-11(1957~1961)
Disk10-3
Disk12-8:79年のニューイヤーから。デッカ初のデジタル録音として話題になったものです。ただし通常盤には収録されず、この大全か、「ニューイヤー1975&1979」でしか聴くことができません。1枚ものの1979年のライブアルバムには削られてしまっています。

 

 
ロリン・マゼール /ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1980)
 1955年~1979年まで、「ウィーンフィルのニュー・イヤー」の指揮台にはウィリー・ボスコフスキーが立っていました(25年間!)が、1980年~1986年までは、同じく弾き振りのできるマゼールが指揮台に立ちました。その間、マーラーの交響曲全集を手掛けるなど、ウィーン・フィルと信頼関係を築いたマゼール。
 ここでは1979年に引き続き、マゼールのタクトでも演奏され、後にも先にも2年連続で演奏された唯一の機会となりました。海外でリリースされたCDには全曲収録されていますが、国内盤はハイライト集となっていて割愛されてします。
 2017年になって、タワーレコードが1980−1983年の4年分のニューイヤーをまとめてリリースするという快挙を果たしました(パチパチ!)

 
 
ヘルベルト・フォン・カラヤン
/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1987)
 1987年にニューイヤー初登場のカラヤン。それだけでも話題になったのに、彼はニューイヤー初となる歌曲をプログラムに据え、当時大人気だったキャスリーン・バトルが爽やかな信念の空気に溶け込むような声を聞かせてくれました(春の声)。帯にも異例のデザインが施されました。
  1980年にはベルリンフィとセッションレコーディングを行っていますが、さすがはカラヤン、徹底した追求美が表現され、ワルツなのに重々しくステップを踏むような演奏になっています。音はつややか。曲目が変わってもカラヤン美が貫かれるスタイルは、ここでも同じ。
 そして1987年のニューイヤーはウィーンでの新年を味わうように、オーケストラ主体の音(ウィーンフィルの音!)が鳴っていて、まったく違う演奏が楽しめます。ちなみに、ナクソスのライブラリーには、1947~1950年にかけてウィーン・フィルとのレコーディングの記録が記載されています。

 カラヤンの登場以降、ニューイヤーは毎年全曲レコーディングされるようになりました。

 

 
カルロス・クライバー/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1992)
 カルロス・クライバーの登場は、どれだけ世間を騒がせたことか(笑)。この曲が演奏されたのは2度目の登場の時で、初登場の1989年は前年に亡くなったバーンスタインの代役としての登場でした。クライバーのタクトによる演奏は、父エーリッヒの演奏と比較されてしまいますが、音質といいしなやかさと言い、断然息子の演奏に軍配が上がります(個人的な好みです)。クライバーも星が好きなのかなぁ、と思ったり。なお、クライバーが唯一残したSACD化にもなりました。

 

 
リッカルド・ムーティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2004)
 前回演奏されてから12年演奏されず悲しい思いをしておりました(笑)が、ここで取り上げてくれたのがリッカルド・ムーティでした。1993年に初登場のムーティでしたが、久々に取り上げられたのは4回目の登場でした。
 ムーティの演奏は、「天体同志のワルツ」というより、甘い言葉を囁きながら、ゆっくりと時間を掛けて、ゼウス(!)が女性を優しく愛撫するような演奏です。

 

 
ダニエル・バレンボイム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2009)
 このコンサートに登場する指揮者の選定は、昨今の人気具合も大きく左右するのでしょうけど、多彩な顔ぶれだなぁと思います。2009年はバレンボイム。最初の登場で「天体の音楽」を取り上げてくれたのは、1980年のマゼール、1987年のカラヤンについで3人目。そして2022年には現役指揮者の中では2回目です。そして2回以上取り上げるのはクレメンス・クラウス、ウィリー・ボスコフスキーに次いで3人目。
 

 
フランツ・ウェルザー=メスト
/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2010 / 2013)
 2枚ともライヴ・レコーディングですが、2010年にレコーディングされたアルバムは、2010年6月8日にウィーンのシェーンブルン宮殿で行われたウィーン・フィルによる野外コンサート。なので、これもウィーン・フィルのライヴレコーディングではありますが、性格は異なります。
 テーマは「月・惑星・星」当初、小澤征爾が務めるはずだった内容を、病気で降板。それをメストが引き継ぐ形で行われました。しかもプログラムを変更せずに。目玉は「天体の音楽」ではなく、ウィーン・フィルが「スター・ウォーズ」を演奏したことに尽きるかもしれません。

 個人的に一番気になったのがホルストの「火星」。というのも、現代音楽を嫌うウィーン・フィルが、1962年のカラヤン以来久々に演奏するのではないかと思われ、しかも選曲された火星は冒頭でコル・レーニョを行うので「果たしてウィーン・フィルがやるのか?」というところ。期待は見事に打ち砕かれ、楽譜を無視して楽器の保護からコル・レーニョを行わず「ダダダダ、ダ、ダダダ」が「ニャニャニャニャ
、ニャ、ニャニャニャ」というフヤケタ音に!

 メストによる演奏では、2010年にヨーゼフ・ランナーの「宵の明星」、2013年のニューイヤーでは「天体の音楽」に加え、ニューイヤー初登場となるヨーゼフ・シュトラウスの「金星の軌道 Op.279」も取り上げてくれています。


 
マリス・ヤンソンス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2016)
 2006年に初登場となったマリス・ヤンソンス。今までのイメージはショスタコーヴィッチだったので「彼がウィンナ・ワルツ?」というギャップがありましたが、そろそろ常連ですね。3回目の登場でやっとこの曲をプログラムに入れてくれました。メスト以来3年ぶりの登場となりました。


 
クリスティアン・ティレーマン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2019)
 


 
ダニエル・バレンボイム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2022)
 現役指揮者の中では2回目はバレンボイムが唯一です(星や宇宙が好きなのかなぁ、それとも他の理由かなぁ)。そして2回以上取り上げるのはクレメンス・クラウス、ウィリー・ボスコフスキーに次いで3人目。

 
 マリス・ヤンソンスがタクトを握った2016年でこの「ニューイヤー」も75年目。それを記念して、1941年~2015年に演奏された曲を、重複することなく1曲ずつ、レーベルを超えて『ニューイヤー・コンサート・コンプリート・ワークス 』というタイトルで23枚組にまとめられましたその曲数319曲!

 当然「天体の音楽」も含まれているわけですが、思わず「おっ!やった!」と漏らしてしまった2004年のリッカルド・ムーティの演奏で収録されています。ムーティ・ファン、天体の音楽ファンとしては嬉しい選曲ですね~ それにしても上記のボックスの側面にクレジットされた歴代の指揮者の名前(ABC順に並んでます)を見ると、歴史の重さを感じます。

♪「天体の音楽」とは別に、天文ファンには気になるタイトル、ヨーゼフ・シュトラウスの♪「宵の明星の軌道 Op.279」と、ヨハン・シュトラウスII世の「宵の明星Op.266」も含まれています。

 

 とまあ、ワルツ(円舞曲)なのでニューイヤーが代表的な演奏(レコード)になってしまいますが、名曲名だけに、ライヴ以外にもレコーディングはされています。
 
 
 
エーリッヒ・クライバー/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1948)
 息子のカルロス・ファンにとって、この曲をニュー・イヤーで取り上げてくれたのは、なんとも嬉しいプレゼントであり、聴くたびに幸せな気分にさせてくれたものでしたが、父エーリッヒも録音を残してくれています。だからカルロスはニューイヤーの時、選曲したのか?
 エーリッヒ・クライバーのレコードは、私の知る限り、この曲のもっとも古いセッション・レコーディング(1948)となります。仮に、どこかの惑星にいて、全天走査していたら、ノイズと共に、かすかな音として聞こえてくる音はこんな感じじゃないだろうか?と思わせてくれる音源です。音楽として楽しむ以前に別な楽しみ方を与えてくれる演奏と言えるでしょう。
  左ジャケットは「20世紀の大指揮者たち~エーリヒ・クライバー」というタイトルで2枚組。右は没後65周年となる2021年にデッカ・レコーディングがまとめられた15枚ボックス。なんと1枚目の1曲目に登場します。




 
ヘルベルト・フォン・カラヤン
/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1949)
/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1980)
 左ジャケットにある若々しいカラヤンのレコーディングはモノラルながら、しっかりとした音で録音されていて「さすがカラヤン」という音。 アルバムタイトルが『ウィーン1946-1949』だから、第二次世界大戦直後からレコーディングを開始しているところが、これまたすごい。

 右ジャケットはまでの膨大なアナログ・レコーディング記録を、すべてデジタル化にすべく再レコーディングを行いました。ベルリンとのセットにはシュトラウス・ファミリーのワルツ、ポルカ、マーチ、序曲が23曲レコーディングされ、「♪天体の音楽」はマックス・シェーンヘルの編曲版で録音されています。通常の版とどのあたりが違うのか、カラヤン・テイストも加わっているために判然としませんが、デジタル録音の硬質な音と、カラヤン美学が加味された演奏ではないでしょうか?まだまだ「ベルリンの壁」崩壊前の東側の空気というか、良い意味でのベルリンの音に聞こえます。




 
ルドルフ・ケンペ /
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1958)
ドレスデン・シュターツカペレ(1972)

 ほとんど曲目が同一となるアルバムを2種残してくれたケンペ。ドレスデンとは7曲、ウィーン・フィルとのレコーディングは10曲。「♪ウィーンの朝・昼・晩」以外は再録音。その中に「♪天体の音楽」あり。
何をどうしてもつややかに響くウィーン・フィルに対して、ドレスデンは重たいドイツ風に仕上がってます。カラヤン盤と同じく聴き比べが出来て楽しいですね。
  個人的には軽い感じの演奏が好きなのですが、本場のオーケストラが奏でる伝統的な響きは、どうしても華やかなニューイヤーの会場を思わせてくれ、ヨーゼフの思い描いた天体のハーモニーを感じます。

 2021年にTower RecordからDefinition Series第41弾『ウィーン・フィル 管弦楽曲集』として5枚組のボックスの中に「天体の音楽」が含まれました。おそらくこの曲のセッションとしては初SACD化ではないでしょうか? (上の左ジャケット)





 
ヨハネス・ヴィルトナー /
ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団(2016)

 元ウィーン・フィルのヴァイオリン奏者で指揮者に転向したヨハネス・ヴィルトナー率いるウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団による名演集の第2集に収録されています。

 噂では「ヨーゼフの最高傑作」という呼び声もあるようで、以下にこの曲の編曲版を紹介します。

 
新ウィーン学派にいよるウィンナ・ワルツ集
 なんとまぁ! シェーンベルグ、ベルク、ウェーベルンらの新ヴィーン楽派の作曲家たちがヨハン・シュトラウス2世のワルツを編曲していたとは!(このアルバムには4曲だけ)。ライナー・ノーツには、4曲だけではアルバムにならないとのことから、父ヨハン、二男ヨーゼフ、そしてヨーゼフ・ライナーの3曲を、ウィーン少年合唱団出身の作曲家ウヴェ・タイマーに編曲を依頼して、全7曲として制作されました。その選曲に、この曲が選ばれるなんて、なんと嬉しいことでしょうか!前人たちと同じように、弦楽四重奏にピアノ、ハーモニウムを加えたアレンジ。まるで街角で奏でられているようなイメージの演奏。天上に繰り広げられている天界の音楽が地上に舞い降りてきたかのような音楽。

ライナーノーツの井坂氏は、以下の言葉で締めくくっていますが、まさにワン・アンド・オンリーです。
「カメラータのいかにもウィーンでしか出来ない一枚」




 
ウィーン・リング・アンサンブル
 先の編成と比べるとスケールは大きくなりますが、それでもわずか9名のアンサンブルによる演奏。なんでもニューイヤーが終わるとすぐに、このメンバー9名(ヴァイオリン2人、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート、ホルン各1人にクラリネット2人)が日本に駆けつけて、ウィーンの香りを届けてくれるのだそうです。さて、このグループの演奏ですが、オープニングのハープがヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのピチカートで行われ、フルートによる旋律はホルンによって小編成ながらスケール感を味わうことができます。

 解説によれば、当時の音楽事情として小編成ほど家庭の音楽人には好まれ、楽譜が売れた時代があったそうです。そんな事情から、ピアノ編曲とか、ヴァイオリンとピアノによる演奏用の楽譜が売れたそうです。




 
ヨハン・シュトラウス・アンサンブル

 もしかしたらウィーン・リング・アンサンブルと同じ編成かなぁ?と思いましたが、アルバムに収録されている全曲の編曲者がHans Totzauer(1909-1987)なので違う響きが楽しめます。 こちらのウィーン交響楽団による編成はヴァイオリン3、ヴィオラ、チェロ、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットが各1、さすがウィーンということでホルンは2です。人数はこちらの方が多いのですが、音の拡がりはこちらの方がこじんまりとしているので、天空での舞踏というよりはホールでのといった感じ。





 
 「美しく青きドナウ」が、もともと合唱曲だったということを知ったときは、ずいぶん驚きましたが、そんな流れから、ウィンナ・ワルツには歌詞をつける習慣があるようで、まさかこの曲にまで歌詞をつけていたとは! ただ、歌詞は後から「メロディ」に合うようにつけられたもので、ヨーゼフが盛り込んだ「天体のハーモニー」を歌っているわけではありません。
 アレンジもコーラス用に短くなっていて、ピアノ伴奏で歌われます。個人的にはもっと神秘的な雰囲気を持っていてもいいかなぁ、と思いましたが、「替え歌」なので、これはこれでありかと。

「遠くからわき起こる天上の合唱
明るく喜びに満ちたその響きは
この世の汚れや悪を除く

森や茂みから喜びの響きが聞こえ
毎日が喜びと幸せに満たされる
暗い家を出て外に行こう
春はもうそこまで来ているのだから」
 

 

せっかくだから…

 
 ヨーゼフは星空に興味があったのか、「天体の音楽」以外にも金星にまつわる曲を作曲しています。
ニューイヤーのライヴ盤で気軽に聞くことができますが、未だに演奏されていない曲も多々。ここでは天体にまつわる曲の一覧と、演奏されたアルバムを紹介します。

ヨーゼフ・シュトラウス(1801-1843)
流れ星 Op.96
-Sternschnuppen, Walzer-
未演奏
明星レントラー Op.220
-Hesperus-Ländler-
未演奏
天体の音楽 Op.235
-Sphärenklänge, Walzer(1868)-
別表参照
宵の明星の軌道 Op.279
-Hesperus-Bahnen, Walzer-
フランツ・ウェルザー・メスト(2013)

 

 
 ワルツ王と異名を取るのは、ヨハンの長男でヨハン・シュトラウスII世。彼もまた天体にまつわるタイトルを残してくれています。

ヨハン・シュトラウス II(1825-1899)
カドリーユ「北極星」Op.153
-Nordstern-Quadrille(1854)-
未演奏
ポルカ「宵の明星」Op.249
-Hesperus-Polka-
未演奏
ポルカ・シュネル「暁の明星」Op.266
-Lucifer-Polka(1862)-
ロリン・マゼール(1994)
ニコラウス・アーノンクール(2001)

 

ヨーゼフ・ランナー(1801-1843)
-宵の明星 Op.180
-Abendsterne-
(「シェーンブルン宮殿コンサート」
ウェルザー・メスト/ウィーン・フィルハーモニー)
※ワーグナーの「タンホイザー」の中のアリア、「夕星のうた」の原題がO du mein holder Abendsternなので、ランナーの曲も「宵の明星」と訳するより「夕星」あるいは「夕べの星」としたほうが混乱が無いでしょうか?そうした邦題をつけているアルバムもあります。作曲者自身も、金星に限定して作曲したのではなく、夕方に見えた星がなんだかわからず、目についた星だったのかもしれません(笑)。

|2022年1月3日更新|

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